国際ビジネス研究
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深セン進出日系企業の事業展開と分業体制変化の考察
溝部 陽司
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2013 年 5 巻 1 号 p. 1-16

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抄録
この20年の日系企業の国際事業展開において、中国での拠点のマネジメントは重要な位置づけであり、その機能分業と役割分担も当初の進出時点から変化してきている。本研究は1990年代以降の深セン進出に始まる日系企業の中国事業展開を、当初の「来料加工」型の輸出向け労働集約的な組立加工事業から、その後の環境や技術の変化をふまえ、巨大成長市場も視野に入れた独資型の販売・開発機能拡充へ適応する実態を明らかにする。また変化の要素には何があり、それに適応するために事業展開や組織の形態、取引先との関係をどのように変化させているかを分析し、今後の成長戦略や分業の変化の方向性に関しても考察を深めることを目的とする。事例として、深セン進出中小事業者3社の加工形態と資本形態の変化に着目し調査した。調査の結果、環境変化と事業展開・分業体制の変化に関する発見事実は、1).中国におけるビジネスを取り巻く環境変化として、最低賃金など労務関係コストの急上昇、税率アップ、外資優遇政策の廃止などから、進出日系企業にとって単なる輸出向けの賃加工生産拠点としての役割維持は困難となっている。また2004年に外資系企業の100%子会社にも中国国内販売が認められ、「独資」という企業形態での巨大成長市場としての中国国内での取引機会への展開を戦略的に重視する方向へ向かった。中国地場企業だけでなく日・米・欧系の進出子会社との取引多様化も期待される。2).環境変化に適応した各社の事業展開と分業体制の変化として、エレクトロニクス関連部品の加工組立業者M電子の事例では、'90年代の深セン進出当初は「来料加工」形態で取引先も生産品目も拡大したが、最低賃金の上昇や、地場業者の生産技術レベルアップ、中国国内市場の興隆に伴い、独資へと企業形態を転換し、中国進出日系・欧米系との取引拡大を目指している。また発注者からのコストダウン要求のため地場のベンダーからの調達ルートを開拓すると同時に、分業範囲での付加価値を高めるために工夫改善能力を身につけ、独自の設計提案でODM化も進んでいる。そのためにはローカルスタッフへの教育・訓練と権限委譲を進めている。
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© 2013 国際ビジネス研究学会
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