抄録
目的
在日ブラジル人が医療サービスを利用する時の、にわか通訳者の利用に関する課題を明らかにし、意思疎通のための改善策を検討する。
方法
静岡県中西部地域に居住し、本人または家族が日本の医療サービスを利用した経験を持つブラジル人を機縁法で18人選定し、3つのグループにわけてフォーカスグループディスカッションを実施した。ディスカッション内容は参加者の許可を得てICレコーダーに録音し逐語録を作成後、通訳に関する文脈について要約的内容分析を実施した。
結果
参加者の日本語会話能力は、「日常生活に支障がない程度の意思疎通が可能」6人、「通常会話で最低限の意思疎通可能」8人、「意思疎通はほとんど不可能」4人であった。18人中6人は通訳を使わず自分で対応し、10人が通訳者に付き添ってもらっていた。通訳者はすべて、家族や友人、または派遣会社の通訳者などのにわか通訳者であった。要約的内容分析の結果、11カテゴリー、3つのテーマに分類された。【にわか通訳者を介すことによる問題】は、「通訳の場面で省略、追加、言い換えが行われている危険性があり、正確性に問題がある」、「医療専門用語は日常生活の語彙ではないため、にわか通訳者の用語の知識は不足している」など、【医療通訳者が医療機関に常駐していないことによる問題】は「にわか通訳者を探す手間がかかる」、「医師の説明が理解できない」、「医師に十分な情報を伝えられない」、「薬の効果、副作用がわからない」など、【意思の疎通をはかるための改善策】は「医療通訳者を常駐してほしい」、「日本語で良いので、必要なことを文書で渡してほしい」などのカテゴリーが含まれた。
考察
にわか通訳者を介す場合と介さない場合は、ともに医療者-患者間のコミュニケーションが正確に行われていない危険性が潜在していた。コミュニケーションが正確に行われないということは、患者だけではなく医療者にも危険を及ぼす可能性がある。また、にわか通訳者は通訳エラーをおこす危険性があることに加えて、患者に近い立場の人である場合は患者のプライバシーを共有することについて問題がある。したがって、患者がにわか通訳者を利用する時には、にわか通訳者に対して医師および患者の言葉を正確に伝えること、プライバシーの保護について事前に説明することが重要である。医療者が患者に対して医療専門用語を避けてわかりやすい日本語で説明することや必要事項を書いた文書を渡すことなどにより、意思の疎通が改善されると考えられた。