国際保健医療
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25 巻, 3 号
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巻頭言
日本国際保健医療学会 学会雑誌 25周年記念特別寄稿
原著
  • 石橋 良信, 渡部 徹, 上原 鳴夫
    2010 年 25 巻 3 号 p. 143-153
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/12/10
    ジャーナル フリー
    農作業にともなうレプトスピラ症感染のリスクを、宮城県とタイ国東北部における過去の流行事例のデータをもとに評価した。同じ農業地帯でありながら、宮城県の流行は10月に際立って多くなる集中型であり、タイ国東北部は雨季の時期で一様に流行する分散型を示した。宮城県の事例では、1959年10月の高リスク地域のリスクは1,600/100,000であり、中リスク地域の3.4倍に相当した。その中リスク地域でさえ、1959年10月のリスクは1960年~1964年同月の平均に比較して2.8倍も高く1959年の流行がいかに大規模であったのかが分かる。一方、タイ国東北部の感染リスクは約50/100,000であり、宮城県の1960年~1964年の中リスク地域のおよそ3割のリスクであった。評価したリスクにもとづいて、両地域の農業従事者を対象に、一人一日の農作業でレプトスピラ菌が皮膚から体内に侵入する菌数を推定した。宮城県で最も大規模な流行が起こった1959年10月の高リスク地域では、10万回の農作業の機会に1,200個の割合で菌が体内に侵入したと推定された。これに対して、タイ国東北部の雨季では10万回の農作業で推定される侵入菌数はわずかに3.5~42個に過ぎなかった。一方、ネズミの生息密度や保菌率、水田の湛水深などの環境条件にもとづいた試算によると、農業従事者は1時間の農作業で4,300個ものレプトスピラ菌に接触する可能性があった。農作業を通じた菌への接触機会に比して体内への侵入個数が極めて少なかった理由として、ヒトの皮膚構造が菌の侵入に対して強固である点が挙げられる。それとともに、水田における水の流れとレプトスピラの挙動に着目すると、ヒトの皮膚表面のごく近傍では水の流れがなくレプトスピラ菌が付着しやすい状態にあるのに対し、皮膚からわずかに離れると菌は流れ方向に容易に輸送され、皮膚に侵入する機会が失われることも、その理由の一つと考えられた。
  • 小林 智幸, Ghita Sami., Amina E.
    2010 年 25 巻 3 号 p. 155-160
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/12/10
    ジャーナル フリー
    目的
    モロッコ王国の地方母子専門病院で測定可能である新生児の低体温症の予後予測因子を見つけること。
    方法
    モロッコ王国の母子専門の地方病院であるパニヨン病院に、2005年10月から2007年7月までの間に低体温症で入院した新生児52例を対象にした。同院では設備や患者層(70%以上は貧困層)の面から、詳細な検査を行うことは実際的ではないため、測定可能な因子として入院時直腸温、在胎週数、入院時体重、入院時の日齢、出生場所について死亡率との関係を比較検討した。
    結果
    52例中36例が生存し、16例が死亡した。生存例と死亡例の比較では、各因子のうち入院時直腸温のみで有意差が認められた(31.1±2.7℃ vs. 28.7±2.3℃; mean±SD, p=0.003)。世界保健機構の低体温症の分類を用い、severe hypothermiaとmoderate hypothermiaで死亡率を比較すると有意差が認められた(45.2% vs. 9.5%, p=0.006)。他の因子の影響も考慮しロジスティック回帰分析を行ったが、やはり直腸温のみが死亡率と相関が認められた(odds ratio 1.408, 95% confidence interval 1.088-1.821, p=0.009)。
    結論
    モロッコ王国の地方母子専門病院で測定可能な因子のうち低体温症の死亡率と相関が認められたのは入院時の直腸温のみであった。専門設備が少ない地方の病院では、新生児の低体温症は入院時直腸温を測定することによって予後を推測することが可能であると思われた。
  • 永田 文子, 濱井 妙子, 菅田 勝也
    2010 年 25 巻 3 号 p. 161-169
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/12/10
    ジャーナル フリー
    目的
    在日ブラジル人が医療サービスを利用する時の、にわか通訳者の利用に関する課題を明らかにし、意思疎通のための改善策を検討する。
    方法
    静岡県中西部地域に居住し、本人または家族が日本の医療サービスを利用した経験を持つブラジル人を機縁法で18人選定し、3つのグループにわけてフォーカスグループディスカッションを実施した。ディスカッション内容は参加者の許可を得てICレコーダーに録音し逐語録を作成後、通訳に関する文脈について要約的内容分析を実施した。
    結果
    参加者の日本語会話能力は、「日常生活に支障がない程度の意思疎通が可能」6人、「通常会話で最低限の意思疎通可能」8人、「意思疎通はほとんど不可能」4人であった。18人中6人は通訳を使わず自分で対応し、10人が通訳者に付き添ってもらっていた。通訳者はすべて、家族や友人、または派遣会社の通訳者などのにわか通訳者であった。要約的内容分析の結果、11カテゴリー、3つのテーマに分類された。【にわか通訳者を介すことによる問題】は、「通訳の場面で省略、追加、言い換えが行われている危険性があり、正確性に問題がある」、「医療専門用語は日常生活の語彙ではないため、にわか通訳者の用語の知識は不足している」など、【医療通訳者が医療機関に常駐していないことによる問題】は「にわか通訳者を探す手間がかかる」、「医師の説明が理解できない」、「医師に十分な情報を伝えられない」、「薬の効果、副作用がわからない」など、【意思の疎通をはかるための改善策】は「医療通訳者を常駐してほしい」、「日本語で良いので、必要なことを文書で渡してほしい」などのカテゴリーが含まれた。
    考察
    にわか通訳者を介す場合と介さない場合は、ともに医療者-患者間のコミュニケーションが正確に行われていない危険性が潜在していた。コミュニケーションが正確に行われないということは、患者だけではなく医療者にも危険を及ぼす可能性がある。また、にわか通訳者は通訳エラーをおこす危険性があることに加えて、患者に近い立場の人である場合は患者のプライバシーを共有することについて問題がある。したがって、患者がにわか通訳者を利用する時には、にわか通訳者に対して医師および患者の言葉を正確に伝えること、プライバシーの保護について事前に説明することが重要である。医療者が患者に対して医療専門用語を避けてわかりやすい日本語で説明することや必要事項を書いた文書を渡すことなどにより、意思の疎通が改善されると考えられた。
資料
  • 久米 絢弓, 西川 まり子, 大久保 一郎
    2010 年 25 巻 3 号 p. 171-179
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/12/10
    ジャーナル フリー
    目的
    日本への留学生数は年々増加し、特に中国人留学生がその多くを占める。保健医療問題やその要因には異なる文化的背景が指摘されているが、保健行動に関与する要因は明らかにされているものは少ない。そこで本研究では、在日中国人留学生の保健行動の実態を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
    自記式質問紙による調査研究。対象は中国人留学生と同大学に在籍する日本人大学生とした。質問の内容は、属性、健康観、病気観、保健に関する信念、身体的精神的健康度、ソーシャルサポート、保健行動、健康習慣とした。
    結果
    回収率は、留学生35.7%(107/300)、日本人大学生47.7%(143/300)であった。対象者の平均年齢は留学生24.5歳で滞在期間は平均3年であり、保健行動は、日本人大学生より留学生の方が高値を示していた。さらにソーシャルサポートは、友人、両親、知人、両親以外の家族であり学校関係者は少なかった。また留学生の健康生活習慣は性別が関与し、女性のほうが良い健康習慣をとっていた。
    結語
    1.留学生は健康に関する意識は高く良好な健康状態を保つための保健行動を実施していた。
    2.留学生は異文化の中で生活しており健康に関する意識や関心が高いが十分なソーシャルサポートが得られにくい環境にある。今後身近な存在のソーシャルサポートが重要である。
    3.留学生の健康習慣には性別が関与している。
  • 高橋 謙造, 重田 政信, 中村 安秀, 李 節子, 真下 延男, 中田 益允, 赤沢 達之, 鶴谷 嘉武, 牛島 廣治
    2010 年 25 巻 3 号 p. 181-191
    発行日: 2010/09/25
    公開日: 2010/12/10
    ジャーナル フリー
    緒言
    近年、日本国内の外国人登録者数は増加傾向にあり、日本で定住し、婚姻、出産する例も増えてきている。同時に、母子保健医療においても多様なニーズが生じ、日常の診療の現場に負担を課してきている。
    今回、在日外国人母子保健医療の現状を明らかにし、在日外国人への保健医療サービスを改善する目的で質問票調査を行った。
    方法
    研究班にて開発した自記式質問票を、群馬県医師会、小児科医会登録(2003年の調査当時)の小児科医・小児科標榜医の計299名に郵送・回収した。調査期間は2003年10月6日―11月3日である。
    結果
    回収率56.5%であり、有効回答数は167通であった。在日外国人の診療経験があるのは155名であった。
    「言葉の面で困った経験」に関し、「よくある」、「たまにある」の回答が全体の75%(117名)を占めていた。対応としては、「身振り手振りや筆談で対応する(68.3% 106名)」、「来院者に通訳可能な知人を同伴してもらう(67.1% 104名)」の二つが主たるものであった。
    通訳の必要性に関する質問に対し、「絶対に必要」「レベルの高い通訳なら必要」の二つの回答で全体の119名(76.8%)を占めており、通訳に求める能力に関しては、「診断、治療方針、投薬内容などの正確な通訳」「患者さんの病歴の細かな聴取通訳」等のニーズが高かった。
    「外国語の母子健康手帳の使用経験」では、「使用経験なし」の回答が82名(52.9%)存在した。
    考察
    医療通訳と診療支援ツールに関するニーズが明らかになった。
    医療通訳に関しては、質の高い通訳が求められていた。このような医療通訳システムの実現には、(1) 基本的医学的知識の研修教育等を受けた医療通訳専門職業者の養成、(2) 既に医療現場において通訳を行っている外国人に教育研修実施による即戦力養成、の二つの戦略が有効であると考えられた。政策的には、自治体ベースでの資格授与スキームが考えられる。
    診療支援ツールに関しては、今後以下の3点に留意し開発することが望ましい。(1) 外国語/日本語併記、(2) イラスト等の利用、(3) サービス提供者が高齢者である場合を配慮した見やすいもの。具体的な内容としては、(1) Common Diseaseに関する診断名、病状経過、治療方針の説明、(2) 発熱時の対応等症状に対する対処法の説明、(3) 保険支払いシステム、各種福祉サービス等に関する説明等を含んでいることが望ましいと考えられた。政策的には、既存ツールの改善提供、外国人集住地域間の情報交換の促進等が考えられた。
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