国際保健医療
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活動報告
喀痰陰性肺結核患者発見に資する胸部X線写真画質評価の試み
伊達 卓二Peter Metzger石黒 洋平下内 昭
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2012 年 27 巻 1 号 p. 79-86

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抄録
開発途上国では、結核対策は費用対効果の視点から、喀痰塗抹陽性肺結核患者の発見と治療が最重要課題とされている。しかし近年になり、HIV/AIDS (Human Immunodeficiency Virus/Acquired Immunodeficiency Syndrome)の感染拡大に伴う結核との合併による影響もあり、重症化した喀痰塗抹陽性肺結核となる前の、より早期に肺結核感染者を発見することが重要視されてきている。その手段のひとつとして胸部X線写真の重要性が再認識されており、肺結核だけでなく胸部疾患の診断にとっても重要な検査である。
胸部X線写真が具備すべき要素は、肺野内の気管支や肺紋理ができるだけ末端まで鮮明に描出されることである。しかしながら、開発途上国で撮影されている胸部X線写真は、読影・診断ができないほど不明瞭な例もあり、課題となっている。このため、TBCTA (The Tuberculosis Coalition for Technical Assistance)は、胸部X線写真の画質向上を目的とした簡易な評価手法を開発し、インターネットで公開している。この手法を用い、カンボジアとケニアで5日間にわたる国際研修を実施(2009年)した後、研修員は帰国後に医療施設を訪問して評価報告書を提出したのでその結果を報告する。
研修には14か国から34名が参加し、9ヶ国から胸部X線写真の評価結果が報告された。参加した9ヶ国の研修員は、5日間の研修を通じて理解した評価手法を用いて評価を実施・報告することができる能力を獲得したことが確認された。報告書を提出した9か国のうち7か国からは、より詳細な胸部X線撮影条件データも報告された。その報告では、69の医療施設のうち65か所では胸部X線撮影として適さない低い管電圧(120キロボルト以下)で撮影されており、これが画質の低いひとつの原因として示唆された。この背景には、X線撮影装置の仕様が問題である可能性もあるが、撮影を行っている技師の技術的な理解が足りないことも考えられ、今後より詳細に調査・分析することで、胸部X線検査の質が向上し、より正確に胸部疾患を読影・診断できるようになることが期待される。
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© 2012 日本国際保健医療学会
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