国際保健医療
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研究報告
日本のグローバルヘルス人材の国際機関勤務を阻む課題に関する分析
地引 英理子杉下 智彦
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2023 年 38 巻 3 号 p. 93-107

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抄録

目的

  多様な経験・専門性とグローバルな視点を持ち、グローバルなルール作りに貢献できる人材育成の必要性が高まっている。政府が掲げる目標の一つにグローバルヘルス分野の国際機関で活躍する邦人職員の増強があるが、日本人は望ましい職員数に達していない。本研究では日本人の医療従事者・非医療従事者が考える国際機関への応募または勤務に当たっての障壁・懸念事項及び政府に期待する支援策を明らかにし、課題を浮き彫りにするとともに就職支援策を検討する。

方法

  日本人の医師、看護職、公衆衛生大学院卒業者、非医療従事者、学生等で、①グローバルヘルス分野の国際機関への就職を希望する人(希望者)、②現在就職している人(現職者)、③過去に就職し離職した人(離職者)の合計20人を対象に半構造化インタビューを行い、質的記述的に分析した。

結果

  国際機関への応募または勤務に当たっての障壁・懸念事項として〈日本社会・日本人特有の課題〉、〈グローバルヘルスのキャリアに対する迷い〉、〈医療従事者のキャリアとグローバルヘルスのキャリアの隔たり〉、〈能力強化の必要性〉、〈国際機関の受験対策〉、〈ワークライフバランスの重視〉〈国際機関に内在する課題〉の7つのテーマ/課題が浮き彫りとなった。〈日本政府に期待する支援策〉については『個別に就職相談できる機関があるとよい』、『国際機関で生き残るための方策を教えてほしい』等の意見が聞かれた。

結論

  以上の結果から、主に個人の能力・資質、ワークライフバランス、帰国後の受け入れ、医療従事者特有の課題が示された。対応策としては、国際機関の現役職員や元職員の知見・経験を活かした、個別のキャリア・カウンセリング、国際機関で生き残るためのノウハウを提供するセミナー、子育て世代の女性就職希望者を対象としたセミナーの実施が考えられる。また、医療従事者の海外派遣を阻む課題については、まずは日本人医療従事者の海外派遣の強化が本人の能力強化、職場環境、外国人患者の受入れ等にもたらす変化・影響を派遣前と派遣後とで比較・検証し、その結果を基に理解を求めていくことが第一歩と考える。同様の観点から、帰国後の受け入れの問題解決のために、サバティカル休暇、長期休職、復職等の諸制度の整備・導入が、特にグローバル企業や外国人患者受入れに特化した病院等に求められる。

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© 2023 日本国際保健医療学会
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