国際保健医療
Online ISSN : 2436-7559
Print ISSN : 0917-6543
38 巻, 3 号
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原著
  • 河津 里沙, 今井 明子, 糟谷 早織, 内村 和広, 大角 晃弘
    2023 年 38 巻 3 号 p. 69-79
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    目的

      外国出生者に対する潜在性結核感染症(以下、LTBI)の服薬支援において、保健所の観点からヘルスコミュニケーションに関する課題を抽出し、整理すること。

    方法

      国内の全469保健所を対象とし、2020年6月~7月に各保健所の結核担当者に対して、調査説明書と自己記入式調査票をEメールで送付した。主な情報項目は、(1)LTBI治療適用となった外国出生者が治療に応じなかった事例と治療開始後に中断した事例の経験の有無とその詳細、(2)LTBI治療適用となった外国出生者に対するヘルスコミュニケーションの課題とした。(1)に関しては選択型質問、(2)に関しては選択型質問と自由型質問を組み合わせて情報を収集した。選択型回答はExcelにて集計し、記述した。自由型質問の回答は質的に分析した。

    結果

      307保健所から(回収率65.5%)、315人分の外国出生LTBI治療適用者に関する有効回答を得た。315人中、25人がLTBI治療未開始事例、52人がLTBI治療中断事例であった。治療未開始および中断事例の77人中、45人は「日常的な会話は問題なかったが、治療など難しい話は対応が必要」、19人は「日常的な会話も困難」であった。一方で医療通訳は77人中6人にしか利用されていなかった。

    外国出生者におけるLTBI治療開始率や治療成功率を影響する要因としては、外国出生者の「結核やLTBIに関する正しい知識の欠如」、「健康に対する意識が異なること」、「経済的な理由」などが挙げられた。

    結論

      外国出生LTBI治療適応者に対するヘルスコミュニケーションの課題は、言語の壁に加えて、保健所側の「彼らの知識が十分ではない」といった外国出生者に原因を求める潜在的な意識にもあると考えられた。この根底には「科学的知識の絶対的正しさ」や「その知識を有する識者がそれを有さない人々に対して、適切に知識を導き与えることで、人々は合理的な行動を起こすことができる」とした実証主義的な考えがある。しかし、近年ではヘルスコミュニケーションにおいて実証主義の限界が指摘されている。保健所の結核担当者は「科学的知識の伝道者」という自らの立場を振り返り、言葉の壁や意識の違いをお互いに踏まえたうえで外国出生者と「対話」することが求められている。「彼らがどのように健康、結核やLTBIを捉えているか」「彼らの行動に影響を与える価値観は何か」をよく聞き取り共に考える、という思考に基づいた支援の在り方を検討する必要があると思われる。

  • 松浦 未来, 樋口 倫代
    2023 年 38 巻 3 号 p. 81-92
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    目的

      誰もが必要な医療を受ける権利、自分の分かる言葉で情報を得る権利を持つ。しかし日本では、日本語を母語としない在留外国人が医療の情報を得ることを言葉の壁が阻んでいると指摘されている。そこで言葉の壁を低くする手段のひとつとして「やさしい日本語」が提案されている。これは相手の日本語能力に合わせて調整した言葉である。英語圏では、医療従事者が患者に平易な英語を用いる方法を検討した研究が行われているが、日本におけるやさしい日本語についての研究は少ない。本研究は、看護学生らを対象としたやさしい日本語に関する講義を実施し、その前後の変化を調べること、講義後の知識と書き換えスキルの関連を調べることを目的とする。

    方法

      看護学部2年生80人を対象とした。必須講義内でやさしい日本語に関する講義を行い、前後で同じ質問票を用いて調査を実施した。質問内容は、日本語を母語としない人に情報を伝えることについての知識、実際の書き換え、日本語を母語としない人とのコミュニケーションについての認識に関するものとした。知識項目数、書き換えスキルの得点、認識を前後比較した。また、講義後の書き換えスキル高得点群と低得点群の間で、知識項目数を比較した。知識項目数と書き換えスキル得点の前後比較にはウィルコクソン符号付順位和検定、知識項目数の2群比較にはマンホイットニーのU検定を用いた。

    結果

      72人が回答した。講義前後で知識項目数の中央値は2から8へ、書き換えスキル得点の中央値は3から4へ向上し、それぞれ有意な差を認めた(p<0.001)。認識についてはやさしい日本語を肯定する回答が講義後に増えた。しかし、講義後の書き換えスキル得点の高得点群は知識項目数の中央値が10、低得点群は知識項目数の中央値が8で有意差を認めなかった(p>0.05)。

    結論

      全体として講義後に回答した知識項目数、書き換えスキル得点とも上がっていたが、知識に基づいて書き換えスキル得点が向上したかどうかは不明である。知識を書き換えスキルに結び付けるには、より具体的な知識や繰り返しの演習も必要であろう。

研究報告
  • 地引 英理子, 杉下 智彦
    2023 年 38 巻 3 号 p. 93-107
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/12
    ジャーナル フリー

    目的

      多様な経験・専門性とグローバルな視点を持ち、グローバルなルール作りに貢献できる人材育成の必要性が高まっている。政府が掲げる目標の一つにグローバルヘルス分野の国際機関で活躍する邦人職員の増強があるが、日本人は望ましい職員数に達していない。本研究では日本人の医療従事者・非医療従事者が考える国際機関への応募または勤務に当たっての障壁・懸念事項及び政府に期待する支援策を明らかにし、課題を浮き彫りにするとともに就職支援策を検討する。

    方法

      日本人の医師、看護職、公衆衛生大学院卒業者、非医療従事者、学生等で、①グローバルヘルス分野の国際機関への就職を希望する人(希望者)、②現在就職している人(現職者)、③過去に就職し離職した人(離職者)の合計20人を対象に半構造化インタビューを行い、質的記述的に分析した。

    結果

      国際機関への応募または勤務に当たっての障壁・懸念事項として〈日本社会・日本人特有の課題〉、〈グローバルヘルスのキャリアに対する迷い〉、〈医療従事者のキャリアとグローバルヘルスのキャリアの隔たり〉、〈能力強化の必要性〉、〈国際機関の受験対策〉、〈ワークライフバランスの重視〉〈国際機関に内在する課題〉の7つのテーマ/課題が浮き彫りとなった。〈日本政府に期待する支援策〉については『個別に就職相談できる機関があるとよい』、『国際機関で生き残るための方策を教えてほしい』等の意見が聞かれた。

    結論

      以上の結果から、主に個人の能力・資質、ワークライフバランス、帰国後の受け入れ、医療従事者特有の課題が示された。対応策としては、国際機関の現役職員や元職員の知見・経験を活かした、個別のキャリア・カウンセリング、国際機関で生き残るためのノウハウを提供するセミナー、子育て世代の女性就職希望者を対象としたセミナーの実施が考えられる。また、医療従事者の海外派遣を阻む課題については、まずは日本人医療従事者の海外派遣の強化が本人の能力強化、職場環境、外国人患者の受入れ等にもたらす変化・影響を派遣前と派遣後とで比較・検証し、その結果を基に理解を求めていくことが第一歩と考える。同様の観点から、帰国後の受け入れの問題解決のために、サバティカル休暇、長期休職、復職等の諸制度の整備・導入が、特にグローバル企業や外国人患者受入れに特化した病院等に求められる。

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第37回日本国際保健医療学会学術大会 英文抄録
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