社会言語科学
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「行為の詩」あるいは「儀礼」としての自然インタープリテーション : 環境ディスコースの言語人類学的考察
浅井 優一
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2009 年 11 巻 2 号 p. 69-82

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抄録

本稿では,環境教育の分野で行われている「自然インタープリテーション」活動を,Silversteinに代表される現代言語人類学の視座に依拠し,〈人間〉と〈自然〉を媒介する「コミュニケーション」の場として捉え,以下の手順に従って考察する.始めに,次の3点,(1)擬音語・擬態語を使用したインタープリター(IP)による動物の描写,(2)「身体」的動作を使用したIPによる動物の「模倣行為」,(3)自然インタープリテーション全体を通して観察される,様々なセグメントの連鎖が創る談話構造,これら全ての点において明瞭な「詩的構造」が観察されることを示す.それによって,自然インタープリテーションを通して,「指標性」が相対的に低く,「象徴性」(テクスト性)が相対的に高い,強固な「相互行為テクスト」が創出されていることを明確にする.以上の考察に基づき,自然インタープリテーションは,相互行為が行われている〈今ここ〉と,それを取り巻く〈彼岸〉,すなわち〈人間界〉と〈自然界〉を,「詩的」(類像的)に媒介することによって,(1)「母なる自然」のメタファーを効果的に喚起し,(2)「自然」との生き生きとした「直接体験」が,「シャーマン」としてのIPによって,演出される,(3)「儀礼」(詩)的な相互行為の場,であることを示唆する.これらの試みを通して,「環境研究」と「コミュニケーション研究」の接合を試み,「ディスコース」として「環境」を捉え,考察する研究視座を提示する.

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© 2009 社会言語科学会
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