2017 年 20 巻 1 号 p. 115-130
本稿は,宛先語を伴わない発問に焦点を当て,第二言語としての日本語の教室における参加の問題の一側面を明らかにすることを目的とする.特に,i)宛先語を伴わない発問は,その産出時に教師の視線が学習者の一人に向けられている場合にも,学習者全員に応答の機会を与えているのか,ii)i)が成り立つなら,この発問に対する応答の機会をめぐる学習者間の競合がどのようにして起こり,その競合が学習者らにどのように扱われているのかを会話分析の手法によって分析,記述することを試みた.分析の結果として,i)宛先語を伴わない発問は,教師の視線が特定の学習者一人に向けられていたとしても,学習者全員に応答の機会を与えていることが示唆された.そして,ii)応答の機会をめぐって学習者間で競合が起こった場合に,後から話し始めた学習者は,先に話し始めた学習者が発話を滞らせているときに発話を開始していた.また,先に話し始めた学習者は,相手の割り込みを受けて,自身のターンを保持することに志向を示していた.それらは,母語話者が日常会話でほぼ無意識に行っていることでもある.これらのことからは,教室で学習者が互いに振る舞いをモニターしながら,相互行為への参加を行っていることが示唆される.