社会言語科学
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研究論文
直前の話し手を指さすこと―直前の発話との関連を示す資源としての指さし―
安井 永子
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2017 年 20 巻 1 号 p. 131-145

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抄録

指さしジェスチャーは,その指示機能については多くの研究の蓄積があるが,相互行為における指示以外の行為についてはまだあまり解明されていない.本稿では,日常会話において参与者に向けられる指さしが,その参与者の指示以外を主な目的として産出されるケースを検討し,その相互行為上の役割を明らかにすることを目的としている.特に,ターンを取得した(もしくはしようと試みた)参与者が,直前の話し手に向けて産出する指さしに着目し,その中でも,(1) 直前の話し手への同意とともに産出される指さし,(2)語りの開始直前に産出される指さし,を検討した.ビデオ収録した自然会話データの分析より,それらの指さしは,直前の話し手が産出した発話(の一部)を指し示し,それが反応の対象であることを可視化させることが明らかになった.直前の話し手への同意にともなって直前の話し手に向けられる指さしは,直前の発話が自分の同意の対象となるものであることを示す.一方で,語りの開始前において,直前の話し手へ向けられる指さしは,これから開始される語りを引き起こしたきっかけが直前の発話にあることを示す一つのリソースとなる.つまり,本稿で検討した指さしは,直前の発話の一部を指示し,それが現在の,あるいはこれから産出される行為と意味的,連鎖的に直接関連していることを示すことで,その行為の産出を可能とする手段となっていた.

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© 2017 社会言語科学会
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