社会言語科学
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20 巻, 1 号
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特集「現代社会におけるメディア研究」
巻頭言
研究論文
  • 橋元 良明
    2017 年 20 巻 1 号 p. 5-15
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    本稿では,筆者が中心となって5年ごとに実施してきた「日本人の情報行動調査」のデータから,文字消費量の推移をたどり,文字消費に関わるタイプ分けを行ってそれぞれの特徴を分析する.

    1995年以降,新聞,雑誌,書籍の活字の閲読時間は全年齢層で減少し続けている.一方,ネット上でのメールやソーシャルメディアの利用時間は増加を続けており,前者と後者の時間量は10代20代においては2005年で逆転した.2015年調査のデータでは,活字と電子文字を合わせた文字の消費時間の総計は20代が年齢層別にみて最も多く,現代の若者の文字の消費量は,有史以来,最高のレベルにあると言っても過言ではない.

    活字の閲読時間と電子文字の消費時間からクラスター分析を行い,活字タイプと電子文字タイプ,中庸(平均)タイプの3タイプを析出した.活字タイプ,電子文字タイプは男性比率が高く,未婚率が高い傾向が見られ,活字タイプは社会的階層が高いという自己認識をもっていた.また,活字タイプは政治関心が高く,政治的有効性感覚も高かった.中庸タイプはメール,ソーシャルメディア,新聞閲読において平均的であり,社会階層の自己認識も「中の中」が多かった.「いつもやらなければならないことに追われているように感じる」という感覚をたずねた「タスク・オブセッション」については,活字タイプで低く,電子文字タイプ,中庸タイプにおいてともに高かった.

  • 北村 智, 河井 大介, 佐々木 裕一
    2017 年 20 巻 1 号 p. 16-28
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,ツイッター上でのポジティブ感情語およびネガティブ感情語の使用と,投稿動機とクラスタリング係数の関係について検討した.20~39歳の日本のツイッター利用者1472名を対象としたオンライン調査データとツイッターのログデータの分析を行なった.分析の結果,社会的報酬動機とネガティブ感情語数,特に不安感情語数には有意な負の関係が示され,記録動機とポジティブ感情語数には有意な正の関係が示された.交流・自己充足動機はネガティブ感情語数との間に有意な正の関係をもつ一方,ポジティブ感情語数との関係ではクラスタリング係数が交互作用効果をもった.最後に,ビッグデータとしてのツイッターデータの利用に関する考察を行った.

  • 打浪 文子, 岩田 一成, 熊野 正, 後藤 功雄, 田中 英輝, 大塚 裕子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 29-41
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,知的障害者に対する「わかりやすい」情報提供を実践する媒体である「ステージ」と,外国人向けの「やさしい日本語」で時事情報の配信を行うNHKの「NEWSWEB EASY」(以下NWE),およびNWE記事の書き換え元であるNHKの一般向けニュース原稿の3つのメディアのテキストを,文長や記事長,難易度や使用語彙の観点から計量的および質的に分析し,その共通点および相違点を明らかにした.分析の結果から,ステージとNWEの共通点として形態素数や和語の率が近いことや,「外来語」や「人の属性を表す語」などの名詞や動詞を中心とした難解語彙の群があることが示された.また相違点として,ステージには副詞や接辞等に「やさしい日本語」の基準に照らせば書きかえ可能なものがあること,さらにステージのみの特徴として同じ動詞をさまざまな形で重ねて使っていることが示された.条件を統制した上で上記3つのメディアの共通・相違性に関する比較研究を深めること,知的障害者向けの情報提供のさらなる分析と知見の収集を行うこと,従来の研究領域を超える「言語的な困難を有する人」すべてを対象とした「わかりやすい」日本語による情報保障の具体的な方法を提示することの3点が本研究の今後の課題である.

  • 泉子・K. メイナード
    2017 年 20 巻 1 号 p. 42-55
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    本稿は,ケータイ小説に使われる言語表現や語りのスタイルの分析を通して,作者がどのような「私」を表現しているかを探求する試みである.背景として,ケータイ小説とメディアの関係,ポストモダンの日本文化の中での性格付け,さらに,ケータイ小説というジャンルの特徴などを考察する.ケータイ小説現象は,モバイルデバイスを通したメディア依存の自己理解・自己提示を可能にする文芸ジャンルとして,若い女性を中心とする大衆に受け入れられてきた.本稿では,書籍となったケータイ小説の分析・解釈を通して,作者が,自分・登場人物・読者を交えた擬似会話をすることで,キャラクターやキャラとしての自己を表現する様相を探る.そしてケータイ小説は根本的には,誰かに話しかけ,誰かと繋がりたいという願望に動機付けられ,キャラクター的自己認識を可能にする擬似会話行為として捉えることができることを論じる.

  • サフト スコット
    2017 年 20 巻 1 号 p. 56-70
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    本稿は最近ハワイで顕著になり始めているハワイ語メディアで使用されている言語を見ることにより,ハワイ先住民であるということがどのように表象されているかを考察するものである.具体的には成員カテゴリーの観点から,一人称複数代名詞kākouの使用により伝統的なハワイ人としてのアイデンティティがどのように構築され補強されているかを検証する.絶滅の危機に瀕する言語のメディアへの出現は復興運動に直接関わり貢献するということを見ていく.

  • 多々良 直弘
    2017 年 20 巻 1 号 p. 71-83
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    現在サッカーは各国の国内リーグ,クラブや各国代表が参加する国際大会が世界各地で報道されており,同じ試合が通訳や翻訳を介さずにさまざまな言語で放送されている.実況中継の参与者たちは,ボールと選手が絶えず移動する流動的な試合を即興的に描写,解説することが求められるわけだが,文化によって試合の中で起こる同じ出来事が異なる形で解釈されたり,異なる側面が言及されたりすることがある.本稿は,日英語の実況中継の参与者たちが同じ出来事を言語化する際に,どの認知資源に注目し,またそれらをどのようなスタイルで伝達するのか分析する.選手たちがミスを犯した場面の日英語による実況解説をデータとし,両言語の参与者たちが選手のミスに対してどのように批判を繰り広げるのか考察していく.英語の実況解説では,コメンテーターたちは客観的に選手のミスを描写し,ミスを犯した選手を言及し,厳しい批判を投げかける.一方,日本語のアナウンサーや解説者たちは,批判をするだけではなく,ミスをした選手の心理的側面を内的引用の形で描写し,意図を理解しようとしたり,選手のおかれている状況を描写したりすることで直接的な批判を回避することが観察される.

  • 片岡 邦好
    2017 年 20 巻 1 号 p. 84-99
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    本論考では,オバマ上院議員が民主党代表として大統領選への出馬を決定づけた,2008年のアイオワ州における勝利宣言の演説を題材にして,オバマ氏の言語的,身体的表象のみならず,TV放映による戦略的なメディア実践をマルチモーダル分析により考察する.それをもとに,聴衆,さらには視聴者に訴える演説の効果は,語り手個人の技能に負うばかりではなく,聴衆とメディアによる多層的な共謀関係により達成されることを検証する.その目的のために,テクスト構築,演説実践,放映実践の3層からなるパフォーマンスを想定し,(1) 演説内容がフラクタル的な3連構造に基づく詩的な意匠により練り上げられ,(2) 演説におけるオバマ氏の視線,ジェスチャー,音調的な特徴などが聴衆に発話境界を予告して双方の相互行為の達成に寄与し,(3) TV放送スタッフはそのような暗黙知を援用して歴史的勝利を伝える映像を効果的に演出していることを述べる.

  • 遠藤 智子, 横森 大輔, 林 誠
    2017 年 20 巻 1 号 p. 100-114
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    一般的には疑問代名詞として分類される「なに」には,極性疑問文の中で感動詞的に使われる用法がある.本研究は自然な日常会話におけるそのような「なに」について,認識的スタンスの標識として記述を行い,その相互行為上の働きについて論じる.まず,極性疑問文における「なに」は,会話の相手が明示的には述べていないことに対して話し手が確認を要求する際に用いられる.そのような環境における「なに」は,相手に確認を求める内容が,先行する会話の中で得た手がかり等の不十分な証拠に基づいて推論を行うことで得られたものであり,その正しさについて強い確信を持たないという話し手の認識的スタンスを標識するものである.さらに,「なに」は発話が行われる個々の文脈に応じて,確認内容に対する驚きおよび否定的態度等の情動表出や,からかいまたは話題転換等の行為を行う資源としても働く.

  • 佐野 真弓
    2017 年 20 巻 1 号 p. 115-130
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    本稿は,宛先語を伴わない発問に焦点を当て,第二言語としての日本語の教室における参加の問題の一側面を明らかにすることを目的とする.特に,i)宛先語を伴わない発問は,その産出時に教師の視線が学習者の一人に向けられている場合にも,学習者全員に応答の機会を与えているのか,ii)i)が成り立つなら,この発問に対する応答の機会をめぐる学習者間の競合がどのようにして起こり,その競合が学習者らにどのように扱われているのかを会話分析の手法によって分析,記述することを試みた.分析の結果として,i)宛先語を伴わない発問は,教師の視線が特定の学習者一人に向けられていたとしても,学習者全員に応答の機会を与えていることが示唆された.そして,ii)応答の機会をめぐって学習者間で競合が起こった場合に,後から話し始めた学習者は,先に話し始めた学習者が発話を滞らせているときに発話を開始していた.また,先に話し始めた学習者は,相手の割り込みを受けて,自身のターンを保持することに志向を示していた.それらは,母語話者が日常会話でほぼ無意識に行っていることでもある.これらのことからは,教室で学習者が互いに振る舞いをモニターしながら,相互行為への参加を行っていることが示唆される.

  • 安井 永子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 131-145
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    指さしジェスチャーは,その指示機能については多くの研究の蓄積があるが,相互行為における指示以外の行為についてはまだあまり解明されていない.本稿では,日常会話において参与者に向けられる指さしが,その参与者の指示以外を主な目的として産出されるケースを検討し,その相互行為上の役割を明らかにすることを目的としている.特に,ターンを取得した(もしくはしようと試みた)参与者が,直前の話し手に向けて産出する指さしに着目し,その中でも,(1) 直前の話し手への同意とともに産出される指さし,(2)語りの開始直前に産出される指さし,を検討した.ビデオ収録した自然会話データの分析より,それらの指さしは,直前の話し手が産出した発話(の一部)を指し示し,それが反応の対象であることを可視化させることが明らかになった.直前の話し手への同意にともなって直前の話し手に向けられる指さしは,直前の発話が自分の同意の対象となるものであることを示す.一方で,語りの開始前において,直前の話し手へ向けられる指さしは,これから開始される語りを引き起こしたきっかけが直前の発話にあることを示す一つのリソースとなる.つまり,本稿で検討した指さしは,直前の発話の一部を指示し,それが現在の,あるいはこれから産出される行為と意味的,連鎖的に直接関連していることを示すことで,その行為の産出を可能とする手段となっていた.

  • 羽山 慎亮
    2017 年 20 巻 1 号 p. 146-160
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    本稿では,政府が障害者に関わる法律・施策等を解説する冊子の「わかりやすい版」8冊を対象に,一般向け版と対照しながら言語的特徴を考察した.「知的障害のある人の合理的配慮」検討協議会(2015)「わかりやすい情報提供のガイドライン」の中で「リーダビリティ」に関する項目に注目し,計量調査等を行なった結果,「名称等の表記は統一する」「漢字にはルビをふる」「漢字が4つ以上連なることばはさける」という点が「ガイドライン」どおりの「わかりやすい版」の特徴として認められ,一般向け版との対比がみられた.「ガイドライン」以外の項目では,「わかりやすい版」のほうが一般向け版よりも漢語および難解語を避ける傾向にあった.「わかりやすい版」における工夫の度合いは一様ではなく,また,項目によって工夫のされやすさが異なるものの,表記や語彙の面で多様な工夫がなされていることが明らかとなった.同時に,「ガイドライン」に記されている項目の多くが,「ガイドライン」を参照していない知的障害者向けの冊子でもおおむね実行されていることが理解され,文章の「わかりやすさ」のポイントとして認められる可能性が示された.

  • 関崎 博紀, 金 庚芬, 趙 海城
    2017 年 20 巻 1 号 p. 161-175
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    本研究では,良好な対人関係の構築と維持に貢献する研究の一環として,対人関係に直接的に影響する行動と言えるほめを取り上げる.日本,韓国,中国でどのような事柄がほめられやすいかについての原因を特定し,その類似点と相違点を解明する.そのために,親友へのほめ20項目からなる質問紙を作成し,3か国の大学生から得た計493名分の回答をデータとして,因子分析を行った.探索的因子分析で抽出された3因子を,それぞれ「本人特有性因子」,「対人関係性因子」,「所有物属性因子」と命名した.そして,検証的因子分析の結果,許容可能な適合度が得られたことから,3か国のほめの因子を3因子構造とした.各因子に属する項目の加算得点を下位尺度得点として一元配置分散分析と多重比較を行ったところ,「本人特有性因子」で3か国に有意差はなく,「対人関係性因子」は,韓国と中国が日本に比べて有意に強く,また,「所有物属性因子」は,中国が日本と韓国に比べて有意に強く持っていることが明らかになった.一連の結果について,従来のほめや価値観の研究結果を踏まえて考察した.

ショートノート
  • 村中 淑子
    2017 年 20 巻 1 号 p. 176-183
    発行日: 2017/09/30
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー

    「国会会議録」(予算委員会)における伝統的な関西方言の出現の様相をみることにより,なぜ関西方言が公的場面で使われうるのかについて考察した.本稿で調べたのは「~まへん」「~まっせ」のようないわゆる「コテコテ」の関西方言のみであり,国会予算委員会における出現数は約60年の間に約100件とごく少数であった.しかし,それらは国会において,自分の意見を主張して強く相手に迫ったり,ワンポイント的にピシャリと批判したりする文脈で出現すること,当初はごくまれにしか使われていなかったが,1970年代から1980年代にかけて出現数が増え始めたこと,関西方言のノンネイティブであっても聞き覚えて使った話者もいそうであること,などの傾向をみてとることができた.少数事例の観察からではあるが,いわゆる「コテコテ」の関西方言は,ある効果を持つフォーマルスタイルの日本語として公的場面において認知されつつあり,その有用さが,公的場面における関西方言使用の広がりに結びついているという可能性がある,と指摘した.

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