本研究では,地域住民が徒歩や自転車でアクセスできる近隣型商店における,店員と常連客による会話を対象とする.分析では,出会いのあいさつの後に生起する雑談に着目し,参加者の空間的な位置関係を踏まえたうえで,雑談の開始・収束と,雑談が展開する中で実践される店員と客の関係を検討した.まず,出会いのあいさつ後の雑談において,店員による前回の接触への言及,生活ルーティンへの言及,客による冗談が観察され,持続的な関係の確認が互いに行われていた.また,この雑談は,店員の常駐位置と出入口が近く,客の動作速度から近接状態の継続が予想されるために生じていた.そして,展開する雑談の中で,店員と客は対等な立場から雑談に参加していた.雑談を収束させて商品選択を促すやりとりからは,規範的な上下関係に基づかない店員-客関係の実践が観察された.上記のような言語使用が買物に付随して日常的にみられる近隣型商店は,自治会や祭りの運営などと並び,地域社会のコミュニケーションが集積される場の一つと考えられる.