2022 年 25 巻 1 号 p. 182-197
本研究は,「TPP大筋合意」を報じたテレビニュースをクリティカル・ディスコース分析の手法で分析し,考え方の枠組みの構築の複合的メカニズムを解明することを試みた.分析の結果,「TPP大筋合意」という出来事について,「農産物などの食品の価格低下で消費者と企業は利益を受けるが,農家が不安を訴えているので政府が対策をとる」という解釈の枠組みが作られていたことがわかった.さらに,この出来事そのものの解釈を超えて,貿易協定などの政策について人々は影響を受ける一方の受け身の存在であるという考え方や,農家と消費者の関係性が対立しているという見方など,一面的で限定的な枠組みが構築されていた.こうした考え方の枠組みは,情報の選択,話の展開,語彙・語法,視覚的要素などのディスコースの要素の複雑な相互作用によって,重みづけ,因果関係,登場人物の属性などが一面的・限定的に描かれ,それらが互いに結びつき強化し合うことで構築されていた.また,ディスコースの要素の1つ1つは特定の考え方をはっきり示してはいないが,すべての要素が一貫して同じ考えを作り出すことで,根拠や説明が十分に示されないまま,他の様々な考え方の可能性が排除され,特定の考え方が,疑う余地のない唯一の考え方であるかのように表されていた.