社会言語科学
Online ISSN : 2189-7239
Print ISSN : 1344-3909
ISSN-L : 1344-3909
研究論文
語りにおける聞き手発話の機能とスピーチレベルの効果
徳永 弘子鈴木 奈央山田 晴奈平石 牧子髙栁 直人楊井 一彦武川 直樹
著者情報
ジャーナル フリー

2023 年 26 巻 1 号 p. 110-122

詳細
抄録

本論文の目的は,初対面会話における聞き手の発話の親密表現が,話し手の表現と対称/非対称にあることが,語りの中でどのような効果をもたらすのかを明らかにすることである.そこで,初対面の高齢女性8名による二者会話のデータから,聞き手の発話に焦点を当てた分析を行った.特に聞き手発話を,「応答系感動詞」,「語彙的応答」,「評価応答」,「繰り返し」,「共同補完」に分類し,各スピーチレベルが,話し手の語りにもたらす効果を定量的,事例的に検討した.その結果,(1) 話し手発話は丁寧体が基調とされるのに対し聞き手発話は普通体が基調とされる傾向がある,(2) 語りの文末に出現する聞き手の「語彙的応答」には丁寧体が使われる傾向にある,(3) 初対面会話を制約する社会性からあえて逸脱する聞き手のスピーチレベルのダウンシフトが相手への近接を示すケースがある,(4) 聞き手の「応答系感動詞」には,語りの文末に至るまでの間,スピーチレベルをアップ/ダウンシフトさせながら相手と安定的な関係を保つ働きがあることが明らかとなった.これにより,初対面二者間において聞き手が親密表現をダイナミックに変化させて,心的距離を調整していることが示唆された.

著者関連情報
© 2023 社会言語科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top