社会言語科学
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研究論文
活動における発話冒頭要素「さあ」―活動の移行と進行の管理とその規範―
安井 永子梁 勝奎
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2025 年 27 巻 2 号 p. 35-50

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抄録

本稿は,発話冒頭の間投詞「さあ」に焦点を当て,進行中の活動の中でそれが担う役割について検討している.マルチモーダル会話分析の手法により,発話や身体動作から明らかになる活動の進行過程における「さあ」の産出位置(タイミング)と,その後に続く行為とその形式に着目した.多くの会話分析研究が,会話における連鎖や発話順番間の関係を示す上での発話冒頭の間投詞を検討してきた一方で,本稿では,発話が中心となる活動のみならず,身体動作による活動をも含めた様々な場面のビデオ収録データを分析対象とした.分析により,複数の段階を踏む活動において,その開始や次段階への移行の位置に来ていることが参与者の振る舞いから予測可能であるときに,「さあ」の産出によって注意喚起がなされることが示された.そのような位置での注意喚起により,活動の次の展開への話し手の関心や注目の高さが示されたり,他の参与者の注意や参加が促されたりしていた.また,「さあ」は,制度的場面と日常場面のいずれにおいても,活動を進める上での責任者(あるいは,責任者を模した参与者)によって用いられることに,参与者が志向することも明らかになった.これは,「さあ」が,制度的・文脈的に,活動の進行を促す責任と権利に結びつく言語要素であることを示している.

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