社会言語科学
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27 巻, 2 号
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巻頭言
寄稿
  • 森本 郁代
    2025 年27 巻2 号 p. 3-18
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/10
    ジャーナル フリー

    裁判員制度は,裁判官と国民から選ばれた裁判員が共に刑事裁判に参加して事実の認定を行い,有罪の場合は被告人に課す量刑を決める制度である.本稿は,裁判員裁判の評議において裁判官と裁判員が経験するリアリティを明らかにすることを目的に,裁判員による意見表明とそれに対する裁判官の質問に焦点を当てて,両者の間で異なる指向が見られる場合,裁判官はそれにどのように対処しているのかを分析した.その結果,1)当事者の主張の捉え方,2)意見と証拠の関係性,3)議論の順番の3つにおいて異なる指向が見られ,裁判官は裁判員の意見表明に対して質問や確認の求めを行うことによって,裁判員の意見が裁判官の指向に沿うものとなるよう教示していることが明らかになった.裁判官のこうしたふるまいは,評議中に直面する実際的な課題に対処する方法として理解できる.

研究論文
  • 山本 由実
    2025 年27 巻2 号 p. 19-34
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/10
    ジャーナル フリー

    本稿は,留学経験を持たない大学生英語学習者の英語にまつわるインタビューでの語り(narrative)を分析し,語りに表出される英語教育とアイデンティティの関わりを明らかにすることを目的とする.大学生英語学習者の二度にわたるインタビューでの語りからは,英語に対する多元的なイメージを内包しながらも,外国人とのコミュニケーションに憧れを持つ者として自らのアイデンティティを構築していく様子が見られた.これは国内の英語教育のコンテクストでの「コミュニケーション」の多義性や「コミュニケーション」重視の風潮を反映しているものであると考察できる.

  • 安井 永子, 梁 勝奎
    2025 年27 巻2 号 p. 35-50
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/10
    ジャーナル フリー

    本稿は,発話冒頭の間投詞「さあ」に焦点を当て,進行中の活動の中でそれが担う役割について検討している.マルチモーダル会話分析の手法により,発話や身体動作から明らかになる活動の進行過程における「さあ」の産出位置(タイミング)と,その後に続く行為とその形式に着目した.多くの会話分析研究が,会話における連鎖や発話順番間の関係を示す上での発話冒頭の間投詞を検討してきた一方で,本稿では,発話が中心となる活動のみならず,身体動作による活動をも含めた様々な場面のビデオ収録データを分析対象とした.分析により,複数の段階を踏む活動において,その開始や次段階への移行の位置に来ていることが参与者の振る舞いから予測可能であるときに,「さあ」の産出によって注意喚起がなされることが示された.そのような位置での注意喚起により,活動の次の展開への話し手の関心や注目の高さが示されたり,他の参与者の注意や参加が促されたりしていた.また,「さあ」は,制度的場面と日常場面のいずれにおいても,活動を進める上での責任者(あるいは,責任者を模した参与者)によって用いられることに,参与者が志向することも明らかになった.これは,「さあ」が,制度的・文脈的に,活動の進行を促す責任と権利に結びつく言語要素であることを示している.

  • ドゥムシャイテ,チェルヴォキエネ ミグレ
    2025 年27 巻2 号 p. 51-66
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/06/10
    ジャーナル フリー

    コロナウイルスの世界的流行によって,あらゆる授業のオンライン化が急速に普及した.数年が経った現在もオンライン授業は多くの教育機関で授業形態の一つとして残っている.将来的にも遠隔授業が多く使用されうることを踏まえると,オンライン・コミュニケーションの実践を研究する必要性があるといえる.本稿では,会話分析の手法を用いて,オンライン授業における順番交替が生じる場面の相互行為を分析する.具体的には,教師が次話者を募っている場面において,学習者が「Zoom」上のミュート解除機能を利用し,そしてそれがいかに理解されているかに着目する.分析から,特定の場面でなされる学習者のミュート解除は,教師による反応を引き起こす,「発話順番を取るための取り組み」という行為として理解されていることが明らかとなった.さらに,ミュート解除がなされる連鎖環境によって,学習者の態度,及びミュート解除に対する教師の反応が異なるということも明らかにした.

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