本稿は,多様化する介護現場で就労する技能実習生と受け入れにかかわる人々に焦点を当てて,日常の介護業務をより良くすることを志向した日本語教育実践において創発されたディスコースをもとにことばと経験を可視化し,言語社会化のプロセスを探究する.日本の介護現場における相互行為を対象とした研究は少なく,実習生が社会的な行為の主体として捉えられ,言語社会化について語られることもない.それゆえ本稿では,実習生を行為の主体として十分に優先しながらことばとコミュニケーションの実践を描き,共生社会を実現するための日本語教育の方途を探る.実習生が就労現場においてことばをいかに捉えながら言語社会化に至るのか,現場の人々はそのプロセスにおいてどのように主体性を発揮しながら調整し合い,価値観を協働で創生し,変容していくのかを明らかにしようとした.研究の方法に参加型アクションリサーチを採用し,主体的,対話的な日本語教育実践を通じて得られた「大丈夫」をめぐるディスコースにもとづいて,参加者がことばを学び,ことばを駆使しながら何を為しているのか,を読み解いた.分析の結果,実習生は行為の主体としてことばの実践をメタ語用的に分析し,時に社会化に抗いつつ,介護の専門性をめぐる経験を通じて行動を変容させていた.その過程をふまえて,介護現場における言語社会化と共生社会について考察を加えた.