2026 年 28 巻 2 号 p. 1-15
日本の社会言語学に大きな影響力を持つ米社会言語学の体系化は,1964年の言語学と社会学の協働作業に端を発する.当時の米社会科学は,米欧主導の人種的境界線に基づく世界システム―ネオコロニアルな搾取,抑圧のシステム―の維持に寄与する科学的論拠を提供した.このような歴史を背景に,白人支配からの解放を目指す米国内外の非白人諸集団に関する社会言語学研究が,主として白人社会の利害関係者によって着手された.白人社会言語学者とこの人々のディスコースを無意識あるいは不注意にも採用する白人以外の社会言語学者は,人種的搾取,抑圧プロセスと言語構造・使用,問題,計画との関係性を分析する概念としての人種を回避し,エスニシティーや民族を分析概念として使用してきた.この影響は日本の社会言語学にも見出され,現在の日本の社会言語学は,米国とその西欧同盟国によって人種階層化された世界システムにおける搾取,抑圧と言語構造・使用,問題,計画の相互作用プロセスを十分に分析できていないのではなかろうか.そこで本稿は,日本で発行される四つの社会言語学誌における分析概念としての人種の使用頻度と使用法を調査し,日本の社会言語学がいかにその相互作用プロセスを不可視化することに寄与しているかを論究する.