抄録
1999年台湾集集地震(M7.6)では,台湾中軸部を南北に走るチェルンプ断層が約100kmにもわたり破壊され、約2500人にもおよぶ人命が亡くなる台湾史上最も大きな被害となった.震源は台湾中央部に位置する集集(Chi-chi)市地下約8kmで,主な被害はこの市に集中している.この地震に伴う滑りは,北方,台中市北東部へも伝播し,滑り速度4.5m/s,滑り変位12m(ベクトル成分)に達した.しかし,激しい揺れが生じず,ここでは断層面直上以外の構造物の被害はほとんどみられなかった.これは,地震波の伝搬過程において,加速度と変位の増大にもかかわらず短周期成分が減少したことを意味し,さらに,これは断層面沿いの摩擦係数の低下によるものと考えられる.
地震波の伝搬過程において,”なぜ断層面沿いの摩擦係数が低下したのか” について,実際に地震のときに滑った岩石の採取およびその分析を通して,その謎を物質科学的側面から解明することが重要である.そこで,台湾チェルンプ断層掘削プロジェクト(TCDP)が立ち上がり,2004 年より開始された.TCDP では2 本の掘削が行われ,そのうちの2 本目(HoleB)の全掘削コア試料(深度950-1350m)が高知コアセンターに運び込まれ,一連の非破壊連続物性計測が実施された.さらに,断層コアから採取した試料を用いて,元素・同位体分析,炭素量分析,磁性鉱物分析,粘土鉱物分析などが実施された.本発表では,このプロジェクトによる成果の概要を報告するとともに,地震時の摩擦発熱により瞬間的に引き起こされる化学反応について,反応速度論的解析の成果についてもお話する予定である.