抄録
本研究では大隅石の六員環構造がつくるチャネルと呼ばれる空洞中の水分子の存在様式を赤外線吸収スペクトルを用いて推定した.緑柱石や菫青石も同様のチャネル構造をもちtypeⅠとtypeⅡの水分子の存在が広く知られている.緑柱石や菫青石のチャネル中の水分子の伸縮振動域の赤外線吸収スペクトル測定では, 水分子の吸収ピークは4本観察されると考えられているが, 実際に観察されているピークは3本のみである. 従って3本のうち1本のピークは2パターンの水分子のピークが重なりあったものであると考えられていたが, そのことは証明されていなかった.今回水熱処理を行いチャネル中に水分子を拡散させた大隅石の赤外線吸収スペクトル測定の結果,チャネル中に水分子の存在を示す明瞭な4本のピークが観察された. これは緑柱石や菫青石で観測される3本の吸収ピークのうち1つのピークは2本の吸収ピークの重ね合わせであることを示唆する.