抄録
能登半島中部の里山地帯を流れる河川において,高度経済成長以前からの里山景観と魚類相の変遷を明らかにし,河畔景観の変化が魚類に与える影響を評価した.研究対象地として,石川県七尾市の典型的な里山地帯を流れる熊木川流域を選定した.熊木川本流とその支流4河川に調査区を合計15ヶ所設定し,各調査区において魚類調査(投網,電気ショッカー使用)と生息環境調査(計測項目:水深,川幅,流速,河床構造,カバー面積,カバー水深)をおこなった.次にこれらの調査から得られたデータをもとにデータ解析(現存量及び種数:一般化線形モデル)をおこない,淡水魚類にとって重要な生息環境要因を抽出した.また過去の魚類生息状況とその河川環境については,1963,1975年撮影の航空写真および地元の高齢者(60歳以上)を対象とした聞き取り調査を実施し,圃場整備前の魚類相と河川環境を推定した.この結果,魚類調査では,流域全体において計15種が確認された.データ解析では,種数・現存量を豊富に維持するには多様な大きさの河床材料と流速変化をもたらすカバーや瀬淵構造が重要であるという結果が得られた.聞き取り調査から,1960年代以前と比較すると現在では淵や河床の礫,河岸のカバーが消失しており,そうした環境を必要とするアユ(Plecoglossus altivelis altivelis),ウナギ(Anguilla japonica),ナマズ(Silurus asotus)等の減少が著しいということが明らかとなった.航空写真による判読から,流路形状は1960年代の圃場整備前と今日ではほとんど変化していないが,河岸に残存した河畔林面積が1/3に減少し,代わってコンクリ-ト護岸区間が10倍に増加した.この結果から,かつての里川にみられた多様な魚類相を再生するためには,明確な瀬淵構造とカバ-の供給源である河畔林,多様な大きさの河床材料の復元が重要であると考えられた.