景観生態学
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原著論文
東京都葛西海浜公園の消波堤によって形成された海浜における海岸植物相の形成過程
楠瀬 雄三村上 健太郎岡 浩平押田 佳子瀬戸口 喜祥木村 賢史
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2016 年 20 巻 2 号 p. 101-115

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抄録

東京湾では古くから埋立てが行われていることから自然海岸が少なく,自然再生によって海岸植物の新たな生育地を創出する必要性が高い地域である.自然再生事業では自然の回復力を活用することが重要視されていることから,漂砂の堆積を促進させて海浜を形成させる工法が効果的と考えられる.そのような工法によって1976年に東京都葛西海浜公園が造られた.本公園には東なぎさと呼ばれる海浜があり,そこには植生が形成され,海岸植物の新たな生育地として機能している.しかし,漂砂を堆積させて海浜を造る工法と海岸植物相についての研究は極めて少なく,その特性について十分な知見は得られてない.そこで本研究では,東京湾における自然海岸,河口干潟,砂を投入して造られた人工海浜など,様々な海岸の植物相を記載した文献を収集し,それらと葛西海浜公園の海岸植物相を比較することで,本公園における海岸植物相の形成過程を明らかにすることを目的とした.1986年,1996年,2001年に葛西海浜公園で行われた植生調査の資料を収集し,2008年に植生調査を行った.これらから,海浜面積,群落や海岸植物相の変遷を調べた.また,東京湾の海岸植物相を記載した7つの文献を収集した.以上の文献から海岸植物を抽出し,解析に用いた.その結果,葛西海浜公園では年数の経過にともなって,種数,植被面積,群落数が増加した.Bray-Curtis ordinationの結果,葛西海浜公園の海岸植物相は年数の経過にともない,自然海岸に近づく変化を示した.それは,年数の経過にともない海浜面積が増加したことで種数が多くなったことと,自然海岸以外では少ない,タイトゴメ,ハマエノコロ,ハマウド,ハマヒサカキなどの海崖生植物や海岸草原生植物が確認されたためと考えられた.これら4種が確認された要因の1つとして,消波堤が漂砂を捕捉・堆積させることにより変化に富んだ地形が形成され,海崖生植物や海岸草原生植物の生育可能な環境が生じたと考えられた.また,種数と海浜面積との間に有意な相関関係が得られた.これにより,今後,再生させる海浜の面積に対する海岸植物の種数を推定することが可能になると考えられた.さらに,東京湾の海岸植物相を構成する基本的な種群が明らかになった.このように,本研究によって得られた結果は海浜の自然再生に活用できると考えられた.

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© 2016 日本景観生態学会
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