景観生態学
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特集「生態系の回復と地域づくり」
小規模湿原の再生とその効果検証―岡山県真庭市の津黒高原湿原における地域づくりと関連付けた自然再生の事例研究―
小川 大介髙木 康平日笠 佑甫日置 佳之
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2022 年 27 巻 1-2 号 p. 15-35

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抄録

西南日本には人為の影響で成立・維持されてきたと見られる小規模な湿原が各地に散在し,生物多様性のホットスポットとなっている.しかし,その多くは里山利用の停止に伴う遷移の進行で劣化や消滅の危機に瀕している.筆者らは,岡山県北部の中国山地に位置する津黒高原湿原を事例研究地として小規模湿原の再生を試行し,①施工前後で環境と植生のデータを比較し,再生事業の効果を検証すること,②調査,評価,目標設定,計画設計,施工,モニタリングという一連の流れを手順化し,一定の一般化を図ること,③小規模湿原の再生に関連した生態系サービスの享受を地域づくりに結び付けることを企図し,その評価を行うこと,の3つを目的とした.まず,2013年に,測量,植生調査,水質・水文調査,日射量調査を行い,現存植生図,地下水位図,日射量分布図などを作成した.その結果,①湿原の一部での地下水位の低下,②湿原とその近接地での高木林による日射阻害,③水質などの富栄養化による高茎草本の繁茂,が明らかとなり,これらが湿原劣化の主要因と考えられた.そこで,流水のかけ流しによる地下水位の上昇,高木伐採による光環境の改善,富栄養化した表土の除去による低茎・中茎の湿生草本群落の成立促進,および環境の多様化を図るための止水域の造成,を主な内容とする湿原再生計画を立案した.この計画は2014年に実施に移された.再生事業で伐採された樹木は近隣の温泉施設で加温用熱源として利用され,また,自然再生士研修会を兼ねた作業により事業が推進された.2015年には,2013年と同内容の調査を行い,施工前後のデータが比較された.その結果,光環境の劇的な改善と,地下水位と水質の一定の改善が認められた.また,湿生草本植物の種数が増加し,目標とするヨシ群落クサレダマ下位単位などが拡大した.一連の事業実践にもとづいて,小規模湿原の再生手順を記述した.また,湿原再生の過程で生じた森林バイオマスの有効利用と,都市部からの参加者を巻き込んだ湿原の再生作業を通じた地域づくりへの貢献について評価した.

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© 2022 日本景観生態学会
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