石炭を採掘する鉱山“炭鉱”の歴史は古く,世界各地で産業を支えてきた.炭鉱跡地に存在するずり山は,石炭又は亜炭に係る捨石が集積されてできた山であり,斜面の安定性に欠け,容易に崩壊する.したがって,炭鉱跡地の管理,安全性の向上のためには,ずり山斜面の安定化はきわめて重要な課題である.植生回復は土壌の表面侵食を防ぐという点から,斜面の安定化に対して一定の効果があると考えられる.本研究の目的は,ずり山における植生回復に影響を及ぼす要因の相対的な影響度を明らかにし,植生回復とその管理のための指針を得ることにある.対象地は北海道空知振興局内のずり山15か所とした.ずり山の植生回復に影響する要因を検討するため,ずり山全体の植被率と平均樹高に対する各要因(周辺森林率,TWI(topographic wetness index),斜度,地形改変割合,植林の有無,閉山してからの経過年数)の影響を調べた.本解析の結果,ずり山の植生回復(植被率,平均樹高)は,閉山からの経過年数と斜度に規定されることが明らかになった.閉山からの年数の経過に伴い,やがて木本中心の植生へ遷移可能であると示唆された.また,平均斜度が大きいずり山では植被率と平均樹高が低く,特に斜度25°以上では植被率への平均斜度の負の影響が顕著であった.平均斜度の増大に伴い表面侵食が増大し,種子の消失,植物の定着阻害が生じていると考えられる.平均斜度25°以下のずり山では,42年で75%の植被率まで回復するため,遷移に任せた回復が見込める一方,25°以上のずり山では緑化基礎工や緑化資材導入等を用いた植生回復が必要なことが示唆された.本研究を通して得られた基準は,炭鉱地での地域づくりに向けて重要な指針となることが期待される.