2023 年 14 巻 2 号 p. 93-100
【緒言】脳血管障害後に足関節の運動麻痺を有する片麻痺患者の多くは,関節安定性を補助するために短下肢装具を使用して歩行能力を維持している.足関節背屈の前脛骨筋を補う短下肢装具は空気圧式人工筋を用いたデバイスが開発されているが,装具使用時の下肢関節運動への影響は未だ明らかになっていない.
【方法】本研究は,空気圧式人工筋を有する短下肢装具による遊脚期の背屈補助が脳卒中患者の歩行動作へ与える影響を調べた.対象は,慢性期脳卒中患者2 名とした.方法は空気圧式人工筋による足関節背屈アシストと非アシストによる歩行動作を実施し,下肢関節角度と下腿筋活動量を比較検討した.動作計測は被験者の下肢に貼付したカラーマーカーをビデオカメラで撮影し,歩行中の股関節,膝関節,足関節角度を算出した.併せて表面筋電計を用いて前脛骨筋,腓腹筋,ヒラメ筋の筋電図を計測し,積分筋電位を算出した.
【結果】アシスト条件で立脚後期から遊脚中期の股・膝関節の屈曲運動が
5~10%歩行周期分だけ遅れが生じた.筋活動量は1 名の検査者のみアシスト条件で前脛骨筋の活動が顕著に増加した.
【結論】足背屈装具の使用は遊脚期の直接的な影響だけでなく,立脚後期の運動パターンにも変化を与えることがわかった.また,遊脚期の足関節背屈補助は前脛骨筋活動を促すことにも有効である可能性がある.この結果は足関節背屈トルクの補助の直接的な影響だけでなく,被験者の運動パターンの変化による影響であると考える.また,症例によっては背屈補助で前脛骨活動を賦活できる可能性が示された.