2014 年 21 巻 p. 79-105
定住自立圏構想のスタートから3年が経過し,中心的な役割を担うと期待された中心市候補団体の間では,自立圏形成について意欲の差が見られる.
そこで本稿では,便益の地域間スピルオーバーの下での繰返しゲームを理論的枠組みとして,そこでの協調解として自立圏形成を捉え,その成否にどのような要因が影響しているかを実証的に考察した.主要な分析結果は次のとおりである.第1に,周辺市町村から中心市候補団体へのスピルオーバーの程度が小さく中心市候補団体から周辺市町村へのスピルオーバーの程度が大きいと,自立圏形成の成功確率は低くなる.第2に,人口規模の大きい中心市候補団体は自立圏形成に消極的である.一方で第3に,中心市候補団体の医療サービスの許容量が大きいと自立圏形成の成功確率が高まる.第4に,構想の当初に想定されたのとは異なり,人口減少リスクは自立圏形成インセンティブとはなっていない.第5に,既存の財政措置は自立圏形成を促進させる効果を示している.
本稿の貢献は,定住自立圏形成という事例を通じて見た場合,地方自治体間の関係は非協力ゲームで説明できることを明らかにした点である.つまり,自立圏形成に至らないという非協力均衡が実現してしまう可能性が考えられる.本稿の結果から,これが避けられるべきならば,財政支援措置の拡充が政策的に有用だといえる.