抄録
本稿は、メディアを介した言語のバリエーションが、いかに社会的意味を生み、循環させるのかを記号論的に論じ、その仕組みをふまえて「地元性の商品化」という問題を批判的に検討する。まず、指標性・投錨・エンレジスタメント・メディア化を道具立てとして、社会的意味の生産・流通・固定・更新を捉える循環モデルを示す。続いて、変異研究において「社会」が実践のなかに立ち現れるものとして捉え直されてきた系譜と、「メディアは言語を変えるか」という論争が「社会言語学的変化」へ組み替えられていく過程をたどる。それらを踏まえて、鹿児島の複合商業施設のローカルCMを分析する。このCMの「ただいま」という一語は、標準語アクセントと鹿児島方言アクセントのいずれを選ぶかによって、幾層もの記号論的なはたらきを同時に担う。すなわち、アクセントの差が、発話を話し手と受け手の社会関係へと投錨して「親密さ」を前景化し、それがフッティングの切り替えと連動することで、帰郷する出演者と再開発で生まれ変わった施設という二重の像を、一人の語り手の声に重ねる。この一連のはたらきを通じて、関係的・情緒的な価値が商業的な説得力へと変換される。それは誰のための「親密さ」なのか――本稿は、この問いのもとで、情緒の商品化の問題を論じる。