本研究の目的は、外国語で語られた出来事を日本語で報じるときに介在する訳出⾏為、すなわち「ニュース・トランスレーション」の現状を分析し、その課題を検証することである。グローバル化の進展に伴い、日本でもニュース・トランスレーションが日常的に⾏われるようになったが、その研究は十分に⾏われてきたとは言い難い。そこで、本研究では日本の主要メディアの1 つである新聞に焦点をあて、翻訳のプロではない記者(journalist-translator)の訳出⾏為を比較分析した。具体的には、2012 年の米⼤統領選を報じた日本の在京主要5紙の記事を対象に、オバマ⼤統領の勝利宣言や就任演説を直接引用した箇所を比較し、その特徴を考察した。分析の結果、字数や時間の制限に対処するため、訳出⽅略としては「省略」が多く用いられていること、またその⽅法は⽂学翻訳のように起点テクスト(ST)への忠実性を最重要視するものではないことなどが明らかになった。同時に、「議論の余地のない明⽩な事実」(Bell,1991) として読者に提示される直接引用が、実際には各紙、各記者で⼤きく異なることも判明した。