2013 年 3 巻 1 号 p. 47-64
本研究ではイギリス人のダニー・ボイル監督によるインドのスラム出⾝の少年を主人公にした 映画「スラムドッグ$ミリオネア」(2008)を取り上げ、この映画をめぐる⽂化変容のダイナミズムを究明した。そのイギリスとインドのハイブリッドという性質ゆえに、この映画は⽂化変容のダイナミズムの起点となり、さらなる流動化をもたらした。インドにおけるこの映画に対する評価が批判から賞賛へと移っていったことは、グローバルな⼒とローカルな⼒のせめぎ合いを端的に表している。当初インドにおいては、⻄洋人による差別的なインドの表象であるとしてこの映画に対する批判が相次いだ。しかし、時間と空間が「圧縮」されたグローバル社会においては、グローバルな声がより大きなものとして現れる。オスカー受賞という高い国際的権威を帯びることで、インド国内ではこの映画が「我々」のものであるとの認識に転換していく。この認識の転換にグローバル社会におけるインドの人としてのアイデンティティの模索が表れている。