2019 年 9 巻 1 号 p. 5-23
いわゆる書き手が情報を伝達するという意味において、文学テクストはメディアのひとつである。しかし、コンテクストが必ずしも明らかではない文学テクストにおいては、読み手がテクストを根拠とし、自らが持てる知識や経験を踏まえ、コンテクストの構築と修正をくり返す中で、意味は生成されていく。以上のように文学テクストでは読み手ごとに多様な解釈が生まれる可能性があることから、他のメディアとはやや異なった性質を持つ。このような文学テクストの性質に着目し、Ernest Hemingwayの"Cat in the Rain" (1925) を教材とする試行授業を行った。この授業の目的は、グループ・ディスカッションという互いの解釈を評価や検討する機会を与えることで、学生により深い思考を促すことにあった。本研究では、学生の同意のもと、6 グループ(23 人)のグループ・ディスカッションを録音した。その録音スクリプトを、Hanauer (2001)による 9 つのカテゴリーと、筆者らが追加した5 つのカテゴリーに基づき分析した。その上で、それぞれの発言時間を計測し、グループ・ディスカッションの実情を詳細に理解することを試みた。結果、積極的に解釈の共有はされていたものの、筆者らが期待した発展的な解釈に結び付く発言はそれほど多くは見られなかった。また、設問で問われている内容の理解に不要な時間が費やされている一方で、活発な議論に結びついた設問があることもわかり、文学テクストというメディアが、グループ・ディスカッションを通して思考を刺激することが示唆された。