抄録
第39次日本南極地域観測隊によって1999年に発見,採集されたYamato (Y) 983885隕石は,その岩石・鉱物学的特徴から月起源であることが報告されている[1]。本研究では月隕石Y983885をより詳細に観察・分析して,その起源を考察した。 月の岩石あるいは隕石は,それに含まれるAlとFeの濃度によって化学的に大きく二種類に分類できる。すなわち,Alに富み,Feに乏しい月の高地起源の斜長岩的な岩石とAlに乏しく,Feに富む月の海の玄武岩である。前者の例としてはDhofar 026 (Al2O3≒30 wt% [2]),後者の例としてはNorthwest Africa 032 (Al2O3≒9 wt% [3]) が挙げられる。Y983885は,主としてCaに富む斜長石(An89-98)などの多数の岩片が細粒のガラス質マトリックス中に埋め込まれているといった特徴から,月の高地起源の斜長岩質レゴリス角礫岩に分類されている[1]。しかし,詳細な組織観察と化学分析の結果,Feに富むマフィック鉱物を含む岩片(最大で約0.4 mm)が含まれていることが分かった。この岩片は組織および組成から月の海の玄武岩起源であると考えられる。実際,Y983885の全岩の主要元素化学分析によると[1],Al2O3濃度は21.8 wt%であり,他の斜長岩質月隕石や月高地 (Al2O3≒25 wt% [4]) のそれよりも低いことが分かる。こうした“混合”月隕石はCalcalong Creekでも報告されており[5],そのAl2O3濃度は約21 wt%とY983885に近い値を持つ。また,Y983885のFeやMgの濃度 (FeO=9.4 wt%, MgO=8.0 wt% [1]) が月高地の値 (FeO=6.6 wt%, MgO=6.8 wt% [4]) よりも高いことは月の海の玄武岩成分を含むことと調和的である。さらに今後,こうした中間的な組成を持つ月隕石が発見されるだろう。 【参考文献】[1] Kaiden H. and Kojima H. (2002) Antarctic Meteorites XXVII, 49-51. [2] Taylor L.A. et al. (2001) LPS XXXII, #1985. [3] Fagan T.J. et al. (2002) Meteorit. Planet. Sci., 37, 371-394. [4] Taylor S.R. (1982) Planetary Science: A lunar perspective. Lunar Planet. Inst., 481 pp. [5] Hill D.H. et al. (1991) Nature, 352, 614-617.