抄録
1.はじめに
CK隕石は炭素質コンドライトの中で唯一強い熱変成を受けており,そのほとんどが岩石学タイプ4-6に属する。CK隕石のほとんどはケイ酸塩暗色化という特異な特徴を示す。ケイ酸塩の暗色化は、隕石の薄片を透過光で見たとき、ケイ酸塩(おもにカンラン石,その他に斜長石)が薄黒・茶色にくすんで見える現象である。この暗色化は、衝撃を受けたときに共融点の低いFe-Niメタルや硫化物が溶融し、ケイ酸塩の割れ目に入りこむことによって起こるとこれまで考えられてきた(Rubin, 1992)。しかし、Kobe (CK4) 隕石のケイ酸塩暗色化は、細かい気泡を含んだカンラン石(vesicular olivine)によることが示された(Tomeoka et al., 2001)。本研究では、Kobe隕石以外のCK隕石においても同様な原因で暗色化が起こっているかを明らかにすること、また暗色化の成因の解明を目的とし、光学顕微鏡・走査型電子顕微鏡を用いてALH85002(CK4,ショックステージS2)、Y693(CK5,S2)の2つの隕石の観察・分析を行った。
2.結果
ALH85002は特に全体的に暗色度が強く、Y693は暗色度の強いところと弱いところが不均質に分布する。ALH85002、Y693のケイ酸塩暗色化を起こしている部分において、細かい気泡(球径0.05-5μm)やマグネタイト、ペントランダイトの微粒子(球径0.1-8μm)を含んだvesicular olivineが、non-vesicular olivine(気泡を含まないカンラン石)の粒子間を埋めて,網の目状の脈を形成している。また、ALH85002のマトリックスで、比較的暗色度が強い部分と弱い部分におけるvesicular olivineの占める割合(modal%)を測定したところ、それぞれ>20%、 <10%であった。
3.考察
暗色化の強いALH85002、Y693両隕石にvesicular olivineが広く存在すること、そして、一つの隕石でも、暗色化の強いところほどvesicular olivineの体積比も大きいことが示された。したがって、これらの隕石のケイ酸塩の暗色化の原因はvesicular olivineであると言える。 Vesicular olivineは、その気泡や球形の包有物を含んだ脈状の組織から衝撃溶融によるものと考えられる。空隙率の高い炭素質コンドライトは、衝撃により大きな加熱が生じる。また、揮発性成分に富むため、溶融と同時に発泡しやすい。しかし、 ALH85002、Y693はどちらもショックステージS2であり、S2の衝撃圧ではカンラン石が溶融するほどの高温には至らない。我々は、vesicular olivineは、高温 (>600℃) に熱せられた天体が、比較的低い衝撃を受けることによってできたと考える。Kiriyama et al. (2001) の高温 (600-800℃) におけるAllende衝撃実験からも、そのことは支持される。ゆえに、我々は、CK隕石のケイ酸塩暗色化は、高温に加熱された天体における衝突の結果起こる現象だと考える。