抄録
上越変成帯には,足尾帯のジュラ紀付加体または古生代付加体を原岩とする低変成度片状岩(水無川・川場変成岩:Takenouchi & Takahashi, 2002: J. Geol. Soc. Japan, 108, 794-)と,高圧型結晶片岩類(Hayama et al. 1969: Mem. Geol. Soc. Japan, 4, 61-)が分布する.後者は谷川岳山頂付近のわずかな露頭や中新統粟沢層の礫などとして産するのみであり,谷川岳の結晶片岩は蓮華変成岩と同じく古生代後期のフェンジャイトK-Ar年代を示す(Yokoyama, 1992: Bull. Natn. Sci. Mus., Ser. C, 17, 43-),清水他(2000:地質学会107年会要旨,289; 2001:同108年会要旨,160)はこれら結晶片岩の岩石学的性質を報告したが,今回はそれらを総括して上越変成帯の変成作用の性質について考察する.検鏡した標本は約300個の粟沢層結晶片岩礫と,谷川岳山頂付近から採集した数個の結晶片岩及び横山一巳博士提供の標本である.
塩基性片岩礫は緑簾石Na角閃石片岩を主体とし,少数のパンペリー石Na角閃石片岩やMnざくろ石緑簾石Na角閃石片岩を含む.Na角閃石はクロス閃石から狭義の藍閃石組成を示し,コアからリムへウィンチ閃石→クロス閃石→ウィンチ閃石という累帯構造を示すことがある.長石はすべて曹長石である.しかし,残存ウィンチ閃石を含む片状角閃岩の礫が1個あり,緑簾石・ウィンチ閃石に富む部分と普通角閃石・斜長石(An38)に富む部分が縞状をなし,ウィンチ閃石のリムを普通角閃石が取り巻く.泥質片岩礫は,緑泥石(±ざくろ石)フェンジャイト片岩(長石はすべて曹長石)が主だが,少数のざくろ石黒雲母フェンジャイト片岩があり,これらはAn16の灰曹長石とルチルを含む.谷川岳山頂の塩基性結晶片岩はざくろ石普通角閃石ゾイサイト片岩と普通角閃石片岩(斜長石An60)であり,泥質片岩はAn40-60の斜長石とカリ長石,ルチルを含むざくろ石黒雲母フェンジャイト片岩である.
従って,上越変成帯の塩基性岩はパンペリー石+Na角閃石の組み合わせから緑簾石+Na角閃石の組み合わせへ累進的に鉱物共生を変化させていたと考えられ,前者の鉱物共生は,パンペリー石+Na角閃石の共生を欠く三波川変成帯低温部よりも,飛騨外縁帯(宮川,1982:岩鉱, 77, 256-,箱ヶ瀬のパンペリー石ローソン石藍閃石片岩)や中国地方(辻森, 1998:地質雑, 104, 213-)の蓮華変成帯低温部に類似している.緑泥石(±ざくろ石)フェンジャイト片岩はこれらに伴う泥質片岩と考えて矛盾がない.しかし,灰曹長石を含むざくろ石黒雲母フェンジャイト片岩は三波川変成帯の高温部と同様である.辻森ほか(2001:地質学会108年金沢大会見学案内書, 157-)は青海変成帯をエクロジャイト・ユニットと非エクロジャイト・ユニットに分け,前者は緑簾石青色片岩相~エクロジャイト相に属するが,後者のうちBanno (1958: J. Geol. Geogr. 29, 29-)の黒雲母帯に相当する部分ではAn10-25の灰曹長石が塩基性岩にも泥質岩にも産し,このユニットは藍閃石片岩相/緑色片岩相漸移帯(緑泥石帯)から角閃岩相(黒雲母帯)に属するとした.粟沢層の礫のうち灰曹長石~斜長石を含む塩基性・泥質片岩や谷川岳山頂付近の結晶片岩類は青海の非エクロジャイト・ユニットに類似し,伊藤(1997:地質学会福岡大会演旨,205)は飛騨外縁帯伊勢地域からも灰曹長石黒雲母帯の泥質片岩を報告している.以上のことから,上越変成帯の結晶片岩類は飛騨外縁帯~中国地方の蓮華変成帯と放射年代だけでなく岩石学的性質もよく類似しており,ローソン石青色片岩相から緑簾石青色片岩相を経てエクロジャイト相に至る典型的な高圧型変成帯と青色/緑色片岩漸移相から角閃岩相に至る高圧中間型変成帯との複合変成帯だったと考えられる.