日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2003年度 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G6-12
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G6:深成岩及び変成岩
東南極ナピア岩体の冷却史:約25億年前のSm-Ndザクロ石アイソクロン年代とSHRIMPジルコン・モナザイト年代
*鈴木 里子白石 和行加々美 寛雄有馬 眞
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抄録
東南極大陸に分布する太古代ナピア岩体は、約39億年のSHRIMP U-Pbジルコン年代が正片麻岩から報告されている極めて古い地質帯である。また、1000℃を越える広域的な超高温変成作用(Ultra-high temperature crustal metamorphism)(約7-11kb)を被った岩体としても知られており(Harley and Hensen, 1997)、初期大陸地殻の形成と進化を解明する上で重要な地域である。これまでSHRIMP U-Pb ジルコン年代、Rb-Sr系およびSm-Nd系全岩同位体年代、CHIME法によるU-Pbジルコンおよびモナザイト年代として、2.8-3.1Gaと2.3-2.5Gaに集中値を持つ年代値が報告されており、超高温変成作用の年代について論争があったが、近年、2.3-2.5Gaを超高温変成作用年代とする説が有力である(Grew et al., 1998; Harley et al., 2001; Carson et al., 2002)。 本研究では、ナピア岩体における超高温変成作用後の冷却史を明らかにすることを目的としリーセルラルセン山地域に産するザクロ石珪長質片麻岩について、Sm-Nd ザクロ石アイソクロン年代とSHRIMP U-Pbジルコンおよびモナザイト年代の測定を行なった。リーセルラルセン山地域は、ナピア岩体の中でも1100℃以上の変成温度が記録される最も変成度の高い地域である(Harley and Motoyoshi, 2000; Hokada, 2001; Ishizuka et al., 2002) 。ザクロ石珪長質片麻岩は、S-type花崗岩組成を持つ(SiO2量68-76wt%)。形状およびTh/U比の値によりジルコンは3タイプに分類できる。A-タイプジルコンはTh/U比が高い中心部コア(Th/U>1.0)とオーバーグロース部、B-タイプジルコンはTh/U比が低いコア(0.4<Th/U<0.7)とオーバーグロース部からなる。コアは組成累帯構造を呈し、オーバーグロース部との境界部にしばしば融食組織が見られる。C-タイプジルコンは、自形コアとオーバーグロース部からなり、組成累帯構造を示さない。一方、モナザイトは不規則な組成累帯構造を呈する。SHRIMP測定の結果、A-タイプコアから約2.83Ga、B-タイプコアから約2.6-2.5Ga、C-タイプジルコンコアから約2.5Gaの年代値が得られた。また、ジルコンのオーバーグロース部から2.48Ga、モナザイトから2.48Gaの年代値が得られた。一方、Sm-Nd ザクロ石アイソクロン年代は2.38Gaであった。この年代値は同地域の他の片麻岩類から得られたSm-Nd 鉱物年代の値とほぼ一致している(Suzuki, 2003)。 本研究で得られた2.83Ga(A-タイプジルコンコア)はinherited ageを、約2.6Gaから2.5Ga(B-タイプジルコンコア)はinherited ageあるいは原岩である花崗岩の定置年代を示していると解釈された。ジルコンオーバーグロース部およびモナザイトから得られた2.48Gaは、ピーク変成年代と考えられる。一方、ザクロ石アイソクロン年代2.38Gaは変成作用後の冷却年代を示していると考えられる。 ピーク変成作用に続く冷却速度を見積もるため、ピーク変成年代(2.48Ga)の最高変成温度を約1100℃とし、Sm-Nd 鉱物年代の2.38Gaを約600から650℃のSm-Nd系ザクロ石閉止温度(Mezger et al., 1992)の通過年代とみなした。見積もられた冷却速度は、約5℃/Maである。ナピア岩体の超高温変成作用は、1100℃を超すピーク変成温度とそれに続く等圧冷却経路(Motoyoshi and Hensen, 1989))で特徴づけられている。本研究によりナピア岩体で初めて推定された極めて遅い冷却速度と等圧冷却経路は、超高温変成作用がアセノスフェアマントルの上昇と密接に関連していた事を強く示唆している。
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© 2003 日本鉱物科学会
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