抄録
活動的火山の直下で生じるマグマプロセスを明らかにすることは、学問的な興味のみならず、火山噴火予知・災害予防においても重要であるが、マグマの発生から噴火までのプロセスがどのような時間スケールで生じているのかについてはいまだ不明な点が多い。我々はこれまで三宅島における火山噴出物(7千年以上前_から_1983AD)のU-Th-Ra放射非平衡を測定し、1)放射非平衡はU及びRaに富むスラブ由来流体がマントルウェッジに付加し、初生マグマを生じたことが原因であること、2)流体の放出から地上でのマグマの噴出までの時間は数千年以内であったこと、及び、3)このような極めて高速の流体やメルトのマントルウェッジ内での移動プロセスは浸透流では説明できず、割れ目系による瞬間的な移動が卓越しているはずであることを明らかにしてきた。
本研究では三宅島における最近500年の火山噴出物(1469AD – 1983AD)のU-Th-Ra放射非平衡に注目し、三宅島下のマグマ供給系の物理化学的進化に対して制約条件を与えることを目的とした。このステージの溶岩は、(230Th/232Th)-(238U/232Th)図においてEquilineに平行なトレンドを示し、また、(238U/230Th)-1/Th図や(226Ra/230Th)0–1/Th図においては直線トレンドを示す。これらのトレンドは一連の分別結晶作用では説明できず、それぞれ非平衡度の異なる2つのマグマ、すなわち、高い非平衡度と低いTh濃度を持つ玄武岩質マグマ(BEM)と、低い非平衡度と高いTh濃度を持つ安山岩質マグマ(AEM)との混合により形成されたと考えられる。AEMは(230Th/232Th)>1.40という特徴を持つが、そのような高いTh同位体比は、三宅島の全ステージにおいて、7千年以上前の古い噴出物のみに見られるものである。しかし(226Ra/230Th)0–1/Th図からはAEMが226Ra-230Th非平衡を持つことが予想され、Th同位体比の結果と矛盾する。このことから、7千年以上前の噴出物を生じたマグマに由来するAEMに、非常に高い226Ra-230Th非平衡を持つ新しいBEMが、少なくとも最近500年にわたり断続的に注入することで、AEMが226Ra-230Thを持つようになったと考えるのが妥当である。(226Ra/230Th)0–1/Th図より、BEMの226Ra-230Th非平衡は時間の経過とともに減少していることが予想され、このことは最近500年にわたってBEMが閉鎖系であったことを示唆している。岩石学的見地からは500年間でBEMの温度は低下傾向にあることが推察されており、238U-230Th-226Raシステマティクスからみちびかれた結果と調和的である。