抄録
三宅島は日本で最も活動的な火山のうちの一つであり、特に近年は約20年ごと(1940・1962・1983・2000)に火山噴火活動がおきていることで知られる。演者らはこれまで2000年を除く火山噴出物について岩石学的・地球化学的な研究を行ってきたが、特に1983年噴出物については、均質な玄武岩質マグマと不均質な安山岩質マグマが噴火直前に混合して形成されたものであることなどを明らかにした(栗谷ほか、2000年岩鉱学会)。そこで本発表においては1983年噴出物のさらなる解析を行い、主に多成分系熱力学モデルを用いた制約によって、端成分マグマの組成の推定やマグマ溜まりの圧力条件の推定等を試みる。さらにこれらの情報を用いて、近年の三宅島火山下のマグマプロセスについて考察を行う。 1983年噴出物は玄武岩質安山岩であり、全岩のSiO2 量は52.6-54.7 wt.%である。斑晶量は概して5vol.%以下である。斑晶組み合わせはカンラン石+斜長石+単斜輝石+磁鉄鉱で、ごくまれに斜方輝石が見られる。鉱物組成から斑晶は2つのグループに分けられ、「カンラン石+高An量の斜長石+高Mg#の単斜輝石+低Usp#の磁鉄鉱」を含む玄武岩質マグマと、「低An量の斜長石+低Mg#の単斜輝石+高Usp#の磁鉄鉱+斜方輝石」を含む安山岩質マグマとの混合が示唆される。1983年噴出物は、A・B・G火口の噴出物を除いて直線的な全岩組成トレンドを有するが、トレンドから外れるA・B・G火口噴出物が存在することや、組成トレンドの直線延長上に端成分マグマが存在し得ないこと、等の根拠に基づき、栗谷ほか(2000)は1983年マグマが均質な玄武岩質マグマと組成トレンドを有する不均質な安山岩質マグマとの混合で形成されたことを示した。 本研究においてはまず、玄武岩質端成分組成の推定を試みた。均質マグマと不均質マグマの混合の場合、2つの均質マグマの混合の場合とは異なり、とりうる端成分のマグマ組成の自由度が多くなる。そこで噴出物の全岩組成と結晶量の情報を用い、とりうる全ての組成領域において粒間液組成を計算して、観察されるカンラン石(Mg#68-70)及び斜長石(An80-88)と平衡共存するという条件から端成分マグマ組成に制約を与えた。カンラン石・斜長石・珪酸塩溶液の熱力学モデルはそれぞれHirschmann (1991)、Elkins and Grove (1990)、Ghiorso and Sack (1995) を用いた。その結果、玄武岩質端成分マグマはSiO2量:約51 wt.%、斑晶量:約15 vol.% 程度であることが分かった。次に、各端成分マグマのマグマ溜まりの圧力条件を推定した。安山岩質マグマについては、結晶のアグリゲート中に残された粒間液の組成と斜長石の組成・単斜輝石と斜方輝石の組成・水の溶解度の制約、を用いることによって、約1kbar程度の圧力条件であったことが推定された。一方玄武岩質マグマについては、噴火直前の震源が地下約7kmまで分布していることを考慮して、約2kbar 程度の圧力条件であったと推定した。 1962年噴出物は、1983年噴出物とほぼ平行な全岩組成トレンドをもち、また斑晶の特徴は1983年噴出物中のものに類似している。このことから、少なくとも1962年噴出物は、1983年噴出物と同様の起源の玄武岩マグマと不均質な安山岩マグマが、1983年噴出物とは異なった比で混合したものであると考えられる。また、今回推定された玄武岩質端成分マグマは、2000年の8月噴火の噴出物と同様の組成・斑晶量を持つことがわかった。このことから、特異な特徴をもつ2000年の8月噴火のマグマが、近年の三宅島火山噴出物における一つの端成分マグマそのものであった可能性が示された。