抄録
基礎試錐「佐渡沖」のカッティングスからvateriteの存在を確認した。カッティングスからのvateriteの報告は、Dry valley (Browne, 1973)、New York、Michigan、Nevada、TexasとNew Zealand (Friedman & Schulz, 1994)、Mississippi (Otvos,1994)などが知られる。しかし、その成因についは諸説が論じられて確かではない。 Vateriteの存在が知られた日本海底からの試料の層準は、更新世の魚沼層群に対比され(石油技術協会、1993)、海底面に近く砂質堆積物に富む。Vateriteは海面下540から950mの8つの層順のカッティングスから得られた。これらのカッティングスは、肉眼的には先の論文(Friedman and Shultz,1994;Otvos,1994)での「火山灰質の堆積物と思われた」という記述に類似し、この特徴はカッティングスからのvateriteを論じた複数の論文で共通する。今回の試料は扁平、あるいは角張っていて、貝殻状断口を示すなど、砕き剥ぎ取られた物に見られる特徴が認められる。 Vateriteを産する佐渡沖ボーリングのカッティングスは灰白色を呈し、calcite以外に少量のportlandite、ettringite-group鉱物を伴う試料が半数を超える。この中でportlandite Ca(OH)2、ettringiteはセメントの水和生成物としてや変質石灰質岩に産することを考えるとき、vaterite生成に油井(坑井)セメントの関与が強く疑われる。 その場合、何時どの時点でvateriteが生成したかが問題になる。同一試料の中でもvateriteは細粒片には無く、大きなサイズの方に含まれている。これから、vateriteの生成には源物質がある程度大きさが必要であること、時間的には遅い時期の晶出であることが推測される。SEM像からはvateriteやettringite-group鉱物は空隙で自形結晶をなすことが確認され、産状からも末期の生成物であることが示される。また内部には気泡状ガラスが見られ、ガス発生を伴う反応が行われたことが示唆される。 他方、X線回折実験の当初、vateriteの回折線が認められなかった試料でも、繰り返し実験での時間の経過と共に回折線が現れ、次第に強度が増すことを確認した。掘削後15年間を経た試料であっても、粉砕による大気との接触で反応を開始したことが示唆される。 問題点として油井掘削時のセメント物質にvateriteの起源を求めた場合、炭酸塩鉱物をつくるに十分な量のCO32-の供給源は何処に求められるか。白色で均質な試料内部には堆積岩起源の物質を殆ど認めないことから、間隙水などを含んで堆積物との混合を考えるには困難がある。