抄録
手稲鉱山は,北海道を代表した鉱脈型鉱床で,現在は行政上,札幌市西区に位置する.種々の金属鉱物が採掘されたが,特に自然テルル,ルソン銅鉱,硫砒銅鉱,四面銅鉱類の産出が有名である.四面銅鉱類に外観が似た渡辺鉱はここが原産地である.また,二次鉱物のうち銅の亜テルル酸塩の手稲石も,ここが原産地である.手稲山ハイキングコース沿いには,昔のズリが豊富に見られる.また一部には鉱脈の露頭が残っている.名倉は露頭の石英脈から明るい天青色の非常に細かい球状鉱物(直径0.1mm前後)を採集した.松原と宮脇はこれを検討し,我が国初産のリシェルスドルフ石であることを確認した.X線粉末回折値は,ガンドルフィーカメラによって得た.水分を除く化学分析はEDSでおこなった.リシェルスドルフ石は,ドイツのRichelsdorf Mountainsから1983年に記載された鉱物で,単斜晶系,理想化学組成式はCa2Cu5Sb5+ (AsO4)4 (OH)6Cl・6H2Oである.その後,ドイツ各地,フランス,米国などからも発見されている.手稲鉱山産のものは,水を除いた実験式はCa1.97Cu5.01Sb1.03 (AsO4)4Cl0.86(As = 4として)となり,理想化学式に近い.主な回折線は,13.2(100),4.96(40),4.40(25),4.27(25),3.12(60),2.83(20),1.763(25)である.この石英脈中には,ルソン銅鉱,硫砒銅鉱,安四面銅鉱が認められ,これらの鉱物の分解によってリシェルスドルフ石が生成した.