抄録
(はじめに)
斜長石かんらん岩は地殻の薄く地温勾配の高い海洋底マントルにおいて一般に存在すると考えられている。海洋底から得られるかんらん岩中の斜長石の起源については、サブソリダス下での反応ではなく、トラップメルトからの晶出が大半であるらしい(Dick, 1989) 。南東スペイン、タジャンテにおけるかんらん岩捕獲岩にも斜長石かんらん岩が存在する。本発表では、タジャンテのかんらん岩における斜長石かんらん岩の起源について議論する。
(かんらん岩について)
スペイン南東部タジャンテ周辺域には中新世にカルクアルカリ火山活動が、それに引き続き鮮新世にマントル捕獲岩を包有したアルカリ玄武岩が噴出した。超苦鉄質捕獲岩類は、Frey and Prinz (1978)でいうところの、Group I(レールゾライトからハルツバージャイト)と、母岩と同じマグマソースを持つとGroup II(クライノパイロクシナイト)に分けられる。これらの岩石は複合捕獲岩(Irvine, 1975)を形成することがある。Group Iの岩石は鉱物組み合わせにより、スピネルかんらん岩と斜長石かんらん岩の2つに分類される。Group Iにはしばしば斜方輝石-斜長石脈が観察され、最も太い脈では石英を伴い、その起源としてはスラブ起源のSiに富むメルトが考えられている(Arai et al. 2003)。Group IIと複合捕獲岩を形成するGroup Iの岩石、または斜方輝石-斜長石脈を含む岩石では斜長石が多く観察されるが、それらと無関係の独立した捕獲岩でも斜長石が見出される。
(鉱物化学組成について)
かんらん石のFo値とスピネルのCr#(=Cr/(Cr+Al)原子比)の関係において、スピネル、斜長石かんらん岩とほぼ同じスピネルCr#(0.15-0.22)をもつが,後者の方がより低いFo値をもつ(スピネルかんらん岩:Fo90.5-91、斜長石かんらん岩Fo89.8-90.8)。また、単斜輝石のAl2O3、Cr2O3量を比較するとスピネルかんらん岩は斜長石かんらん岩より高く,TiO2wt%は斜長石かんらん岩のほうが高い。東工大に設置されているSIMSにより求められた単斜輝石中の微量元素存在量のうち、La/Yb比はスピネルかんらん岩、斜長石かんらん岩はそれぞれ1.32-1.99、0.70-1.84であるのに対し、斜方輝石-斜長石脈を含むサンプルにおいては1.57-4.71と比較的高い値を示す。REEパターンにおいてはスピネル、斜長石かんらん岩は、後者がEuの負異常を持つ点を除いて、ほぼ似たいようなフラットなパターンを示すのに対し、脈を持つサンプルはLREEにエンリッチしたパターンを示す。
(議論&まとめ)
スピネルかんらん岩は圧力低下に伴い斜長石かんらん岩へとサブソリダス変化することが知られている(Kushiro and Yoder, 1966)。しかしながら、この反応は系のCr/Al比に影響を受け、Cr/Al比が高い岩石ほどこの反応曲線はより低圧側へと移動することが知られている。一連の様々な枯渇度を有するスピネルかんらん岩が減圧した後、高枯渇度の部分はそのままで、低枯渇度の部分にのみ斜長石が形成されることが起こり得る。タジャンテでは一見これが起きているように思える。そのことは微量元素の検討からも指示され、スピネル、斜長石かんらん岩はほぼ同じようなREEパターン、La/Yb比を持つのに対し、外界からのメルトの影響を受けたサンプルはLREEにエンリッチしたパターンに変化したことが明瞭である。したがって、タジャンテの斜長石かんらん岩は外部からのメルトの侵入を受けて形成されたものではなく、サブソリダス変化によってもたらされたと結論づけられる。