抄録
岩石の粒径は,岩石のレオロジー的性質を支配する重要なパラメターの一つである.例えば,上部マントルにおける岩石の変形メカニズムが粒界拡散クリープか転位クリープであるかどうかは粒径及び差応力によって決まる.さらに,粒界拡散クリープ条件下における岩石の変形速度と粒径には, ε∝d^(-3) (ε:変形速度; d:粒径; m=2-3:定数)の関係があるため,粒径は岩石の変形速度にも大きな影響を与える.そのため,ペリドタイトの粒成長実験を行うことで,実際の上部マントルでの平均粒径を見積もることは重要である.
今回,種々のかんらん石(Fo)/単斜輝石(Di)の量比をもつウェーライトの粒成長実験を行い,特に平均粒径とFo/Diの量比の関係について注目した.実験はピストンシリンダー型装置を用い,1.2GPa,1200℃で行った.出発試料はゲル合成粉末(CaMgSi系)を用い,1wt.%の純水を試料に加えて焼結した.実験時間は約1週間である.
Fo/Diの量比がFo100-Fo80Di20(数字は重量%)のウェーライトでは平均粒径が50-70μmに達するのに対し,Fo70Di30-Di100のウェーライトでは平均粒径が5-15μmに留まるといった結果が得られた.つまり,Foに富むウェーライト(Fo100-Fo80Di20)の平均粒径は, Diに富むウェーライト(Fo70Di30-Di100)よりも3-5倍大きい.この結果を粒界拡散クリープの式に当てはめると, Diに富むウェーライトの変形速度は,Foに富むウェーライトよりも9-125倍速いことになる.このことは,Di組成等の主要元素の枯渇度がマントルの流動性に大きな影響を与える可能性があることを示唆している.
Diの平均粒径は,Fo/Di比によって大きな差はなかったが,Foの平均粒径は,Foに富むウェーライト中の方が,Diに富むウェーライト中よりも3-5倍ほど大きかった.つまり, Foに富むウェーライト中でのFoの粒成長速度・粒界移動速度は,Diに富むウェーライト中よりも非常に速かった.このFoの粒界移動速度は,粒界に存在するDi粒子の数密度に依存している.粒界に存在するDi粒子のサイズ及び数密度が高い,Diに富むウェーライトでは, Foの粒界移動が非常に遅くなり,粒成長速度が低下したため,平均粒径が大幅に低下したものと考えられる.
マントルを構成する岩石の粒径は主に粒成長と動的再結晶によって決まる.本研究では動的再結晶の効果については考慮していないが,それを考慮したとしても, Foに富むウェーライトの粒成長速度は, Diに富むウェーライトよりも速いため,実際の上部マントルにおいて,Foに富むウェーライトの粒径がDiに富むウェーライトよりも大きくなる可能性がある.つまり,岩石のレオロジー的性質と主要元素の枯渇度(かんらん石/単斜輝石の量比)には関係があることが予想される. 岩石の変形速度に影響する,粒径以外の因子として,水の効果(e.g Karato et.al,1986),メルトの効果(e.g. Cooper & Kohlstedt,1986)が挙げられるが,それらの効果が表われるのは,水,メルトが存在する場所に限られる.それに対して,粒成長速度と主要元素の枯渇度(かんらん石/単斜輝石の量比)の関係は,上部マントル全体に適用が可能であるという意味で重要である.