抄録
苫小牧市東方に位置する勇払地域の地下深部には,ホルスト状の高まりを有する基盤の白亜紀花崗岩類が存在し,国内最大級の油ガス貯留層となっている。この花崗岩類は勇払周辺の地表には分布せず,その分布範囲や他の白亜紀火成岩類との関係など地質学的詳細は明らかにされていない。これまでに勇払地域の坑井から採取された花崗岩類のジルコンFTおよびカリ長石のK-Ar放射年代測定結果から,100Ma前後が花崗岩類の迸入年代に近いとされ,本花崗岩類と北上山地の白亜紀花崗岩類との類似性が指摘されている(石油資源開発札幌鉱業所勇払研究グループほか,1992)。今回,勇払地域の花崗岩類および近隣の基礎試錐「馬追」に出現した斑糲岩類の坑井コア・カッティングス(計24試料)を用いて,全岩でのSr同位体組成を分析し,本花崗岩類の年代や成因などの検討を試みた。 本花崗岩類は,斑状組織や微文象組織を一部で示すなど浅所貫入型の様相を呈する黒雲母花崗閃緑岩からホルンブレンド黒雲母花崗閃緑岩である。新鮮なホルンブレンドも見られるが黒雲母,ホルンブレンドの多くは緑泥石に交代され,一部でぶどう石やパンペリー石も認められる。斜長石はアルバイト化や絹雲母化を受けているものが多い。さらに,濁沸石や石英などの細脈が発達する部分もある。化学組成ではSiO2 は75(±3)wt % (無水換算)と比較的狭い範囲示すことが特徴で,SiO2 の増加に対してTiO2,Al2O3 FeO*, CaO,P2O5, Sr, Yが減少する傾向がみられる(蟹沢ほか,1999)。垂直方向では深部ほどやや苦鉄質になる傾向が見られる。 Sr 同位体組成は,脈などを除いたなるべく新鮮な試料を選出し,表面電離型固体質量分析計(Finnigan MAT262)を用い,Miyazaki and Shuto(1998) の方法に従って求めた。その結果,勇払地域の花崗岩類のSr同位体比(87Sr/86Sr)は0.7040から0.7068の比較的広い範囲を示す。また,87Rb/86Sr-87Sr/86Sr図上で,変質の影響が大であるとみなされる一部の花崗岩試料を除いてこれらはほぼアイソクロンを示すことから,York(1966)に従ってSr-Rb年代値を求めると115.3±18.06Maであった。この年代値は石油資源開発札幌鉱業所勇払研究グループほか(1992)が求めた年代値よりも古く,北上花崗岩の年代(K-Ar年代で128-106Ma:河野・植田,1965)や特にShibata et al.(1978)の北上山地I帯花崗岩類の迸入年代(Ar-Ar年代で約116,118Ma)により整合的である。 花崗岩類のノルム石英量とSr同位体比とには良い相関が見られることから,これらはすべて同源のマグマ起源物質から生じた1つの岩体である可能性がある。全岩アイソクロン法によって本花崗岩類のSr同位体初生値(SrI値)を推定すると0.7033から0.7039(モデル年代:115Ma)であった。この値は花崗岩類のSrI値としては極めて低く,およそP-MORBの領域(0.7030から0.7035)に落ちることから,これらの花崗岩類が枯渇したマグマ起源物質から生成されたことが示唆された。さらに,「馬追」の斑糲岩類のSr同位体比も花崗岩類とアイソクロンをなすことから,花崗岩類との類縁関係が推定された。この斑糲岩類は樺戸山地の隈根尻層群に対比できる可能性が指摘されており(山田・風間,1998),今回の結果によって本花崗岩類と礼文-樺戸帯の塩基性火山岩類との成因的関連を考慮する上で重要な知見が得られた。