日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会 講演要旨集
2004年 日本岩石鉱物鉱床学会 学術講演会
セッションID: G4-21
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G4:深成岩および変成岩
行者山花崗閃緑岩中の石英の溶け残り組織
*奥田 大志北村 雅夫下林 典正
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抄録
 花崗岩マグマは、その多くは大陸地殻が部分溶融して発生すると考えられているため、花崗岩の成因を考える上で、その起源岩石を推定することは非常に重要である。そのために有力な手がかりとなるのが、起源岩石の溶け残り組織である。廣井( 2000)は、Sタイプ花崗岩中の石英粒にカソードルミネッセンス(CL)像で起源岩石の溶け残りと思われる組織を報告した。石英中の溶け残り組織及びその内部の包有物は、石英が花崗岩の主要鉱物のうち唯一固溶体でないため、包有物と石英間のSi以外の元素交換反応がなく、起源岩石当時の化学組成や鉱物共生をよく残していると考えられる。そこで本研究ではまず、石英粒に見られる組織が溶け残り組織であるかどうかの検証を行なった。続いて、その組織中に含まれる包有物の分析を行い、起源岩石の推定を行った。 本研究では、Sタイプ花崗岩である京都府亀岡市西部の行者山花崗閃緑岩を試料として用いた。走査型電子顕微鏡(SEM)によるCL像観察及び組成分析、透過型電子顕微鏡(TEM)による微細組織観察を行った。 CL像の観察により、いくつかの石英結晶はその中央部に粒状に発光する領域が見られる。TEM観察によると、この粒状領域とその外側との境界部には多くの転位が見られる。結晶成長の途中で、転位数が局所的に増加する可能性は低いため、境界部の両側では成長の過程に連続性がないと考えられる。また、その粒状領域の内部にカミングトン閃石、黒雲母、チタン鉄鉱、燐灰石を包有するものもいくつか存在した。カミングトン閃石とチタン鉄鉱は粒状領域の外部では見られない。そのため、この粒状領域は起源岩石の鉱物を包有している起源岩石の溶け残りであると考えられる。 溶け残り部分での鉱物共生から判断すると、起源岩石は角閃岩のような高温変成岩であると考えられる。しかし、そのような変成岩は行者山付近で露出していない。よって、行者山の地下深部にはかつて高温変成岩の岩体があり、花崗閃緑岩の起源となったと考えられる。 一方、この組織とは異なるリング状に発光する組織も見られた。リングに囲まれた結晶中央部には、包有物として斜長石、カリ長石、黒雲母が存在している。石英結晶中心部と石英結晶外部にある斜長石、カリ長石、黒雲母の組成比較を行った。内部包有物と石英結晶外部の結晶の組成領域の幅が一致する場合もあるが、内部包有物の組成領域の幅が、斜長石(An0-An5)、カリ長石(Or95-Or100)、黒雲母Fe/(Fe+Mg)比(0.57-0.63)を示し、石英結晶外部の結晶の組成領域の幅、斜長石(An15-An45)、カリ長石(Or84-Or95)、黒雲母Fe/(Fe+Mg)比(0.36-0.42)と明らかに異なるものも存在する。後者の特徴を示す結晶は主に微細な包有物であり、組織の外部では見られないゾイサイトを伴うこともある。したがって、この包有物を含む領域はその組成からは花崗岩の形成初期に晶出した結晶を包有したとは考えがたく、起源岩石の鉱物組み合わせを保存している可能性がある。
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© 2004 日本鉱物科学会
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