抄録
香川県東かがわ市東部の海岸部には、玄武岩質から流紋岩質の広い組成範囲を示す数多くの平行岩脈が新期領家花崗岩類のメンバーである白鳥花崗岩中に貫入しており、これらは白鳥花崗岩の貫入後まもない時期に貫入したと考えられる(氏家, 1978など)。今回、微量元素を含む化学組成、Sr及びNd同位体組成に基づいて、これらの岩脈とその周囲に産する領家帯花崗岩・苦鉄質岩類や瀬戸内火山岩類との間の成因的関係を検討した結果を報告する。岩脈を構成する岩石はマフィックなものからフェルシックなものまで(SiO2=48-76%)、一連の結晶分化作用によるものとされている(氏家, 1978; Ujike, 1980, 1982)。予察的に求めたRb-Sr全岩アイソクロン年代は67±7Mを示し、白鳥花崗岩に報告されている黒雲母のK-Ar年代 (77, 83, 87 Ma; 河野・植田, 1966, 柴田, 1979)よりやや若いが、Sr初生同位体比は両者ともも0.7074前後の似た値を示す。さらにフェルシックが岩脈の主成分および微量成分組成は白鳥花崗岩のものと大変良く似ている。これらのデータは、岩脈とその母岩の白鳥花崗岩が成因・起源物質について密接な関係にあることを強く示唆する。さらに、マフィックな岩脈の化学組成とSr, Nd同位体比は領家帯に散点する苦鉄質火成岩類の中いわゆる“変輝緑岩”の持つ値と非常によく似ている。変輝緑岩類はまた、これらと密接に産する角閃石ノーライトからガブロキュームレイトを晶出させた液相に相当すると考えられる。つまり、間接的に領家花崗岩類と苦鉄質火成岩類の間の成因的関連性が示唆される。一方、瀬戸内地域の領家苦鉄質岩類はハンレイ岩類も変輝緑岩類もともに200Ma前後の、領家花崗岩類(70-90Ma)に比べてかなり古い形成年代を示しており、同時期の火成活動によるものでないことが明らかである(Okano et al., 2000)。白亜紀後期におこった領家火成活動と共通する先駆的活動が200Ma前後から始まっていたのであろう。その時代に生じたであろう古い“領家花崗岩類”は、後に削剥されたか白亜紀後期の火成活動により再溶融して失われたのかもしれない。また現在見られる領家花崗岩類を作り出した大規模な白亜紀後期火成活動の際生じた苦鉄質マグマのほとんどは深所にとどまって現在の下部地殻を構成していると考えられる。