抄録
金属核と珪酸塩マントルの境界(CMB)は、地球内部で化学的にも熱構造的にも最も重要な境界面である。CMB直上に存在する地震波速度異常を示すD"層の構造や、核中に含まれる軽元素の問題を考える際には、CMBにおける核‐マントルの相互作用に関する理解が不可欠である。これまでに核とマントルのモデル物質としてそれぞれ金属鉄とエンスタタイト、またはオリビンを使用したレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルによる高温高圧実験がなされており、金属鉄と珪酸塩は高温高圧下で反応して酸化物やFeSi合金を生成してD”層の成因となっている可能性、またこの反応で溶融金属鉄中にSiやOといった軽元素が取り込まれ、核中に含まれると考えられている軽元素の問題とも密接に関係していることが報告されている(Knittle&Jeanloz, 1989,1991)。しかし一方で、オーブンで試料を乾燥させAr雰囲気下において行われた実験(Hillgren&Boehler, 1998)ではそのような反応は起こらないと報告している。このように、この反応系に関しては、研究者間で結果が必ずしも一致しておらず、まだ完全に明らかにはなっていない。その要因として本研究ではレーザー加熱の方法に着目した。これまでのレーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセルを用いた実験では、レーザーを走査することによって試料中に複雑な温度履歴が残ることや、加熱時間が10分程度と短く、十分に反応していない可能性などの問題点がある。そこで本実験ではNd:YAGレーザーのマルチモード(集光径約50μm)による両面加熱を行い、レーザー走査をせずに最大1時間保持するという実験を行った。 実験では出発試料として天然エンスタタイト(Mg0.99,Fe0.01)SiO3と厚さ約5ミクロンの純鉄(99.99%pure)の箔を使用し、試料を真空オーブン(130度)で一晩乾燥させ、その後Ar雰囲気下においてセルを閉じ加圧した。圧力51 GPaにおいて3064(72) Kの温度で一時間保持した実験の回収試料をEPMAにより観察した結果、鉄と珪酸塩の境界に(Mg,Fe)O酸化物が生成していることが明らかになった。反応生成物は非常に細かい組織(粒径が1ミクロン以下)を示しており、今後ATEMによる微細部の組成分析および組織観察を行う予定である。