抄録
マントル内で生成・成長したダイヤモンドは、マントルから地表への上昇過程に伴う圧力の減少により、ダイヤモンドの不安定領域(グラファイト安定領域)を通過し、周囲の炭素に不飽和なキンバライト・ランプロアイトマグマにより溶解作用を被る。天然八面体ダイヤモンドの{111}面上には多数のトライゴン(三角形エッチピット)が普通に存在し、八面体に加え、六-八面体、十二面体、フットボール球状といった多様な形態が知られている。ダイヤモンドの{111}面上のトライゴンの形成および多様な形態はキンバライト・ランプロアイトマグマによる溶解作用の結果である。本研究ではピストンシリンダー型高圧装置を用いてダイヤモンドの被溶解環境を再現し、キンバライト・ランプロアイトメルト中におけるダイヤモンドの溶解作用と溶解に伴うダイヤモンドの形態変化を明らかにすることを目的とした。平滑な{111}面に囲まれた八面体ダイヤモンド結晶を種結晶として用い、溶媒物質である南アフリカ・ウェーゼルトン産無斑晶キンバライト粉末もしくはオーストラリア・西キンバレーマウントノース産ランプロアイト粉末と共に白金カプセルに封入した。実験条件は1GPa、1300℃、WI buffer、20-600分である。 溶解作用を被ったダイヤモンドの{111}面上には{111}面とは逆方位のネガティブトライゴンが多数形成された。溶解作用の進行に伴い、トライゴンは小径で底の浅いものから大径で底の深いものへと変化した。{111}面は頂点、エッジから{111}面の中心へ向けて丸みを帯びていき、平滑な{111}面は徐々に縮小した。トライゴンの大径化と平滑な{111} 面の面積縮小に伴いトライゴン密度は著しく減少し、平滑な{111}面の消滅と共にトライゴンも消滅した。さらに溶解作用が進行するに従ってダイヤモンド種結晶は八面体から六-八面体、二十四面体へと連続的に形態を変化し、最終的に球形に近い形態を呈した。 本実験条件下でダイヤモンド種結晶はキンバライト溶媒中で0.0138 mm/h、ランプロアイト溶媒中では0.0024 mm/hの溶解速度となり、キンバライト溶媒はランプロアイト溶媒に比べ約5倍高い溶解性を示した。キンバライトに炭酸塩(ドロマイト)を添加したものを溶媒として用いたところ、キンバライトのみを溶媒として用いたものと比較して炭酸塩の添加量の増大に従いダイヤモンド溶解量は減少し、炭酸塩のみを溶媒として用いた場合ダイヤモンドは全く溶解作用を被らず、その表面がグラファイトの薄膜に覆われた。 Arima (1998)の報告からダイヤモンドの溶解作用は周囲の酸素分圧に大きな影響を受け、酸素分圧の上昇に伴いより高い溶解作用を被ることが知られている。一方、本実験の結果からケイ酸塩メルト中の炭酸塩濃度とダイヤモンド溶解量は負の相関を示した。このことからダイヤモンドの炭素が酸化され、炭酸塩としてケイ酸塩メルトに溶け込むという反応によりダイヤモンドが溶解するという結論に至った。ケイ酸塩メルト中に溶解する炭酸塩量はケイ酸塩メルトの陽イオンに依存しており、メルトの成分の内Ca2+、K+、Na+は炭酸塩溶解量を増大させSi4+、Al3+は溶解量を減少させることが知られている(たとえばSpera and Bergman, 1980)。本実験でのキンバライトメルトとランプロアイトメルトによる約5倍ものダイヤモンド溶解量の差は、両メルト中の陽イオンの存在量の違いから炭酸塩溶解量に大きな差が生じたことによる可能性を示唆している。 本実験で観察された溶解作用によるダイヤモンド連続的な形態変化は、天然に見られるダイヤモンドの様々な形態を非常に良く再現し、ダイヤモンドの溶解作用は溶媒の化学組成に強く依存することを証明した。