抄録
死後の血漿および脳脊髄液の1,5-アンヒドログルシトール(1,5-AG)値が,死後における糖尿病の診断に有用かを腎障害のない59例(糖尿病既往歴あり:n = 13,糖尿病既往歴なし:n = 46)について,死後HbA1c値や糖尿病既往歴とともに検討を行った.その結果,血漿1,5-AG値と脳脊髄液1,5-AG値には正の相関があり(r = 0.59),糖尿病既往歴ありの方が糖尿病既往歴なしよりも,血漿や脳脊髄液の平均1,5-AG値がともに統計学的に有意に低かった(血漿1,5-AG値:6.8 ± 8.3 µg/mL vs. 23.6 ± 13.0 µg/mL,脳脊髄液1,5-AG値:6.1 ± 5.3 µg/mL vs. 19.4 ± 7.9 µg/mL).また,糖尿病既往歴のある症例の全てが,血漿か脳脊髄液のいずれか,もしくはその両方で1,5-AG値が低かった.更に,糖尿病既往歴がない症例では,約8割に血漿か脳脊髄液のいずれか,もしくはその両方が正常範囲であったが,HbA1c値6.5%以上の人は,両試料で1,5-AG低値であった.糖尿病既往歴がない症例で血漿1,5-AGのみ低値の症例には溺死による死因の影響が考えられた.法医学における死因診断において,溺死の場合は脳脊髄液を対象とすることを考慮すれば,死後の血漿および脳脊髄液の1,5-AG値の測定は,HbA1c値と合わせて評価することで劇症1型糖尿病を含めた正確な糖尿病による死因診断の一助になることが示唆された.