医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
技術論文
AQT90FLEXを用いたプロカルシトニン測定試薬の基礎的検討
前原 純秋田 豊和
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2018 年 67 巻 2 号 p. 217-220

詳細
Abstract

当院では現在,プロカルシトニン(procalcitonin;PCT)の測定にイムノクロマト法を用いているが,テストラインの色調の判定が3段階と煩雑で,個人差が生じやすくなっている一方,この判定を標準化することは困難と考えていた。また月検体数が100検体未満の当施設から考えると,専用の免疫分析装置を導入するにはコストがかかりすぎるため,断念していたのが現状である。今回,測定が簡便で,かつ定量測定ができるAQT90FLEXを検討する機会を得たため,基礎的検討を行った。結果は,同時再現性のCVは3.1~6.3%,日差再現性のCVは2.5~5.2%で,イムノクロマト法との一致率は88.0%であったが,不一致例は目視判定の個人差に依存するものと考えられた。また血液培養との一致率は75.0%で,PCT値が高いと血液培養の陽性率も高くなる傾向であった。AQT90FLEXによるPCT測定は,個人差の生じないかつ定量測定ができ,オンライン運用することも可能なため,入力間違いなどのヒューマンエラー防止も期待できる。また検査依頼件数が少ない施設でも,試薬の無駄がなく測定できることから,検査室の収益にも貢献できると考えられる。

I  はじめに

プロカルシトニン(procalcitonin;以下PCT)は,甲状腺のC細胞から分泌されるペプチドホルモン,カルシトニンの前駆体で,分子量は13 kDaでアミノ酸116個よりなる。PCTは特に敗血症性ショックで著明に上昇し,臓器障害の重症度と関連するため,細菌や真菌感染に伴う敗血症の診断補助や治療法選択,重症度判定に用いられる1)。当院では現在,PCTの測定にイムノクロマト法を用いているが,テストラインの色調の判定は煩雑で,個人差が生じやすい上にこの判定を標準化することは困難である。そこで今回,全血測定で定量値報告できるラジオメーター社のAQT90FLEX(以下,AQT)を用いたPCT試薬を検討する機会を得,若干の知見を得たので報告する。

II  対象および方法

1. 測定機器と試薬の比較

AQTの測定原理は時間分解蛍光免疫測定法(time-resolved fluorescence immunoassay;以下TRFIA)で,1)All-in-one cupにサンプルとバッファを自動分注。2)37℃でインキュベーションするとサンプル内に存在する抗原を含む免疫複合体が形成され,未反応物質はB/F分離される。3)カップが乾燥され,TRFIA法により測定値を積算し,実測ヘマトクリット値で血漿値に換算された定量測定結果を算出する。測定時間も22分と短く,全血測定が可能なため,迅速に結果報告できることと,全自動測定器であるため個人差も生じないという利点がある。対照試薬は現在ルーチン検査で使用しているブラームスPCT-Q(和光純薬)(以下イムノクロマト法)を用いた(Table 1)。

Table 1  Comparison of two companies
使用機器AQT90FLEX(ラジオメーター) 対照(和光純薬)
試薬 プロカルシトニンAQTテストキット ブラームスPCT-Q
測定原理 時間分解蛍光免疫測定法 イムノクロマト法
測定時間 22分 30分
検体タイプ 全血or血漿 血漿or血清
検体量 56 μL 200 μL
結果判定 定量 テストラインの色調による3段階濃度による半定量
カットオフ値< 0.05 ng/mL健常人< 0.05 ng/mL健常人
0.05~< 0.50 ng/mL局所的な感染,敗血症ではない0.05~< 0.50 ng/mL敗血症は否定的で局所感染の可能性あり
0.50~< 2.0 ng/mL敗血症の可能性のある全身性の感染0.50~< 2.0 ng/mL敗血症の可能性あり
ただし,外傷の状態でもみられる
2.0~< 10 ng/mL敗血症ハイリスク2.0~< 10 ng/mL敗血症の可能性が高い
≥ 10 ng/mL敗血症性ショック≥ 10 ng/mL重症敗血症
または敗血症性ショックの可能性が高い

2. イムノクロマト法の判定における問題点

判定基準をTable 2に示した。0.5–2未満ng/mL,2–10未満ng/mL,≥ 10 ng/mLは赤紫色のテストラインを濃淡でのみで3段階に判定するため,個人差が生じやすい。また< 0.5 ng/mLも無色ではなく,「0.5 ng/mLよりも薄い場合」となっているため,先入観による誤判定の原因になりやすい(Figure 1)。

Table 2  Criteria of the immunochromatography method
濃度 色調
< 0.5 ng/mL テストラインの赤紫色がリファレンスカードの0.5の色調より薄い
0.5–2未満ng/mL テストラインの赤紫色がリファレンスカードの0.5の色調より濃く,2の色調より薄い
2–10未満ng/mL テストラインの赤紫色がリファレンスカードの2の色調より濃く,10の色調より薄い
≥ 10 ng/mL テストラインの赤紫色がリファレンスカードの10の色調より濃い
Figure 1 

Judging method of the immunochromatography method

3. 対象

対象は,当院検査科にPCT検査依頼があった患者検体50例を用いた。イムノクロマト法はEDTA-2Na入り採血容器を遠心分離し,血漿を用いて検査している。AQTの測定は,イムノクロマト法の検査終了後に再度混和し,全血として測定した。

4. 方法

1) 再現性

同時再現性には2濃度のプールした全血を,日差再現性には2濃度のプールした全血および3濃度のコントロール血漿を用い,10回連続測定した。

2) 2法の一致率

全血測定したAQTとイムノクロマト法をPCT測定依頼のあった50検体を用いて検討した。イムノクロマト法については添付文書に記載されている半定量値を用いた。

3) 血液培養結果との一致率

PCT測定依頼のあった50検体のうち,20検体に血液培養の依頼があったため,この結果との一致率を検討した。

III  結果

1. 同時再現性

2濃度のプールした全血を10回連続測定した結果,Lowレベルはmean = 0.213,SD = 0.013,CV = 6.3%,Highレベルはmean = 4.09,SD = 0.129,CV = 3.1%であった(Table 3)。

Table 3  Within-run precision
L H
Mean (ng/mL) 0.213 4.090
SD 0.013 0.129
CV (%) 6.3 3.1

2. 日差再現性

2濃度のプールした全血と3濃度のコントロール血漿を10回連続測定した結果,(全血)Lowレベルはmean = 0.611,SD = 0.020,CV = 3.3%,(全血)Highレベルはmean = 4.13,SD = 0.216,CV = 5.2%,(血漿)Lowレベルはmean = 0.427,SD = 0.011,CV = 2.5%,(血漿)Midレベルはmean = 2.69,SD = 0.099,CV = 3.7%,(血漿)Highレベルはmean = 10.8,SD = 0.422,CV = 3.9%であった(Table 4)。

Table 4  Between-day precision
プール血球 コントロール血漿
L H L M H
Mean(ng/mL) 0.611 4.130 0.427 2.690 10.800
SD 0.020 0.216 0.011 0.099 0.420
CV(%) 3.3 5.2 2.5 3.7 3.9

3. 2法の一致率

PCTの依頼があった50検体をAQTで測定した結果,半定量値と定量値が一致した検体は44件で,一致率は88.0%であった。

4. 不一致の内訳と原因

6件の半定量値と定量値の不一致例の内訳は,イムノクロマト法で10 ng/mL以上であった4例は,AQTで9.5,9.8,6.8,7.9 ng/mLであった。一方,イムノクロマト法0.5以上2 ng/mL未満であった2例は,AQTで0.4,2.2 ng/mLであった。

5. 血液培養結果との一致率

検討した50検体のうち,血液培養の検査が提出されたのは20検体で,敗血症(血液培養陽性)はPCT陽性になるとした時,そのうち15検体(75%)で結果が一致した。不一致であった5検体(25%)すべてはAQTでは高値を示したが,血液培養では陰性という結果であった。

6. PCT値と血液培養陽性率

血液培養検査が提出された20例の結果をPCT値ごとに層別すると,症例数は少ないが,PCT値が低力価群よりも高力価群の方が,血液培養の陽性率が高い傾向が得られた(Table 5)。

Table 5  A PCT level and blood culture-positive rate
PCT(ng/mL) < 0.05 < 0.5 0.5~2.0 2.0~10 ≥ 10
症例数(n) 0 8 4 5 3
血液培養(n) 0 2 2 1 2
陽性率(%) 0 25.0 50.0 40.0 66.7

IV  考察

イムノクロマト法を対象試薬としてAQTの基礎的検討を行った結果,同時再現性はCVが3.1から6.3%,日差再現性では2.5から5.2%と,概ね良好であった。提出された50検体で,半定量値と定量値の一致率を検討した結果,一致率は88.0%であり,不一致の6例すべてが目視判定の個人差に依存するものと考えられた。また血液培養とPCT値の一致率は75.0%であり,検体数が少ないが,PCT値が高いと血液培養の陽性率も高くなる傾向であった。PCTは侵襲の大きな手術,外傷後,熱傷後,横紋筋融解と発熱などを特徴とする悪性症候群,腫瘍,膵炎,誤嚥性肺炎,真菌感染症などでも偽高値を示すと言われており,不一致症例について疾患名を調査した結果,膵炎,子宮体癌手術後,誤嚥性肺炎であったことから,これら疾患により偽高値を示したものと考えられた2),3)。PCTは血液検体中で安定性がよく,敗血症の重症度の指標として有用であるが,本検討でもAQT高値に対し血液培養陰性が25%存在したように偽陽性・偽陰性などを考慮し,診察所見や他の検査所見と組み合わせて総合的に診断することが重要である。PCTは,細菌感染症で反応時間4–6時間のCRPと比べると反応時間2–4時間と立ち上がりが早く,迅速に鑑別できれば血液培養結果を待たずに,早期に抗菌薬を投与することができ,抗菌薬の適正使用にもつながる。また,AQTの特徴として検体を前処理することなく,全血ですぐに測定ができるので,迅速な結果報告が可能である。加えて煩雑な目視判定で結果を報告するイムノクロマト法に比べ,個人差が生じず且つ定量測定ができるAQTは,オンライン運用することも可能なため,入力間違いなどのヒューマンエラー防止も期待できる。当院のように1か月あたりの依頼件数が100件未満の施設では,大型の免疫測定装置で測定するとかなりの無駄が発生するため,試薬の無駄がなく測定できるAQTは,検査室の収益にも貢献できることが期待される。

V  結語

AQTの基礎的検討の結果は,概ね良好であり,イムノクロマト法との一致率も高いことから,ルーチン検査への導入は可能であると考えられる。

 

本論文の要旨は,第48回日本臨床検査自動化学会において発表したものである。

謝辞

今回の検討に際して,機器,試薬を提供して頂いたラジオメーター社の皆さまに深謝致します。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2018 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top