2019 年 68 巻 2 号 p. 254-260
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)などの膠原病では,動脈硬化症の危険因子の有無に関わらず動脈血栓塞栓症が好発する。そのため動脈硬化病巣の形成に関与する活性化血小板・単球複合体の定量は重要であると思われるが,その臨床的有用性は検討されていない。本研究では全血フローサイトメトリーによる活性化血小板・単球表面抗原解析法を確立し,各種膠原病(SLE36例,結節性多発性動脈炎5例,関節リウマチ6例,混合性結合組織病7例)を対象に臨床研究を行った。その結果,SLEでは他の膠原病に比べ活性化血小板・単球複合体の割合が有意に高かった。さらに,SLE症例を抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome; APS)合併群19例と非合併群17例に分類した結果,APS合併群で明らかに活性化血小板・単球複合体の割合が高かった。次に,SLE症例を脳梗塞10例,肺塞栓症3例,心筋梗塞3例,深部静脈血栓症4例,無血栓症16例に分類した結果,無血栓症群に比較して特に脳梗塞および心筋梗塞など動脈血栓塞栓症群で活性化血小板・単球複合体形成割合が有意に高かった。これらの結果より全血フローサイトメトリーによる活性化血小板・単球複合体検出法が脳梗塞や心筋梗塞を中心とする動脈血栓塞栓症の発症を予測できる検査法として有用であることが示唆された。
In collagen diseases such as systemic lupus erythematosus (SLE), arterial thromboembolism occurs frequently regardless of the conventional risk factors for arteriosclerosis. Measurement of activated platelet–monocyte complexes (aPMCs) involved in the formation of arteriosclerotic lesions is very important, but its clinical utility has not been investigated. In this study, we investigated whether the measurement of aPMCs by flow cytometry analysis is useful as a clinical laboratory tool to predict the risk of arterial thromboembolism in prospective clinical studies of collagen disease patients. We measured the positivity rate of aPMCs in patients with various autoimmune diseases such as SLE, rheumatoid arthritis (RA), polyarteritis nodosa (PN), and mixed connective tissue disease (MCTD). The positivity rate of aPMCs was significantly higher in SLE patients than in other autoimmune disease patients. Furthermore, the SLE patients were classified into the antiphospholipid syndrome (APS)-complicated group and noncomplicated group, and both were compared. The positivity rate of aPMCs was obviously higher in the APS-complicated group. In addition, we divided SLE patients into the following 5 groups according to their complications: cerebral infarction (n = 9), myocardial infarction (n = 3), deep vein thrombosis (n = 5), pulmonary embolism (n = 2), and nonthrombosis (n = 17). The positivity rate of aPMCs was significantly higher in SLE patients with cerebral infarction and myocardial infarction than in those with deep vein thrombosis, pulmonary embolism, and nonthrombosis. The present study showed that the positivity rate of aPMCs determined by flow cytometry analysis could serve as a marker to predict the risk of arterial thromboembolism in SLE patients.
近年,生活習慣の欧米化に伴い,わが国でも虚血性心疾患や脳血管障害など動脈血栓塞栓症をベースとする疾患が死因の上位を占めており,血栓症の診断に関する検査は極めて重要な課題である。虚血性心疾患や脳血管障害の原因としては動脈硬化症が挙げられ,その危険因子として脂質異常症・高血圧症・糖尿病・肥満・喫煙などが知られている1)。しかし,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)をはじめとする膠原病では,このような危険因子の有無に関わらず脳血管障害など動脈血栓塞栓症が好発している1)。その病因として,多彩な自己抗体の出現や慢性の炎症反応により血管内皮細胞が傷害され,血管内で血小板の活性化が誘発されやすい状態が形成されていると推測される。そのため,血栓形成の初期段階に生じる血小板の活性化を把握することは臨床上極めて重要であるが,生体内血小板活性化状態を再現性良く定量できる検査法は未だ確立されていない2),3)。わが国では,血小板活性化マーカーとして血漿中の血小板第4因子(PF4)やβ-トロンボグロブリン(βTG)の測定が保険診療上認められているが,検体の処理法などが標準化されておらず,安定して評価できる検査とは言えない2)~4)。最近,生体内血小板活性化の評価に,血小板膜表面におけるCD62P(P-セレクチン)の発現をフローサイトメトリーにて解析する方法が汎用されている5)~7)。CD62Pは,血小板や血管内皮細胞に誘導される140 kDaの細胞接着分子で,アゴニストによる刺激を受けると活性化血小板の表面に発現し,血小板-単球の接着を媒介する。このCD62Pと単球の相互作用(クロストーク)は血管内皮細胞上への炎症細胞集積を惹起し,動脈硬化病巣(プラーク)の形成を促進させると考えられる8)~10)。
本研究では,全血フローサイトメトリーによる活性化血小板・単球表面抗原解析法を確立し,SLEをはじめとする膠原病:結節性多発性動脈炎(periarteritis nodosa; PN)・混合性結合組織病(mixed connective tissue disease; MCTD)・関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)などを含めた前向き臨床研究を行い,確立したフローサイトメトリー法が血栓症の発症を予測できる鑑別検査法として有用か否か検証した。
健常人ボランティアおよび各種膠原病患者:SLE36症例(男性3例,女性33例:年齢40.9歳[29~55歳]),PN 5症例(男性4例,女性1例:年齢58.6歳[54~62歳]),MCTD 7症例(男性3例,女性4例:年齢50.6歳[42~59歳]),RA 6症例(男性2例,女性4例:年齢62.7歳[56~69歳])より抗凝固した全血を用いた。
本研究は,山口大学大学院医学系研究科保健学専攻医学系研究倫理審査委員会の承認(363-1)を得て実施した。
2. モノクローナル抗体骨髄単球系マーカーであるモノクローナル抗体CD14-FITC(Miltenyi Biotec社),さらに血小板が活性化された際に膜表面に出現するP-セレクチンに対するモノクローナル抗体CD62p-PE(Miltenyi Biotec社)を用いた。
3. 全血フローサイトメトリーによる活性化血小板・単球複合体検出法の確立Figure 1に全血を用いたフローサイトメトリーによる活性化血小板・単球複合体検出法のプロトコルを示す。EDTAにて抗凝固した全血をファルコンチューブに100 μLずつ分注し,血小板用固定液TromboFix(BECKMAN COULTER社)を100 μL添加して90分静置し固定した。その後0.01 M Phosphate Buffer Saline(PBS)を1 mL加え1,700 G・5分間遠心,上清をアスピレートした。固定・洗浄した血液をピペッティングにてよく混和して100 μLずつ分注し,CD14-FITC × CD62p-PE(単球/活性化血小板比率)で二重染色し暗所で15分反応後,溶血試薬:Optilyse C(BECKMAN COULTER社)を500 μL添加し赤血球を溶血させ,さらにPBSを500 μL添加しフローサイトメトリー(Miltenyi Biotec社)にて測定した。
確立した全血を用いたフローサイトメトリーによる血小板・単球・顆粒球同時解析プロトコルを示す。EDTA採血された全血を速やかに血小板用固定液:ThromboFixに等量の全血を混和して90分間静置し,血小板を固定処理した。その後,PBSを添加して1,700 G・5分間遠心,上清を除去した後,再度PBSを添加して洗浄した。上清を除去した後別の試験管100 μLに分注してCD14-FITCおよびCD62-PE各2.5 μLにて二重染色した。Optilyse Cにて赤血球を溶血し,PBSを添加後,flow cytometryにて測定した。
活性化血小板・単球複合体検出のフローサイトメトリー解析では,サイドスキャッター(SSC)と単球マーカーであるCD14にて単球分画を確定し,P-セレクチンが接着した単球の割合をCD62Pの発現にて定量した(Figure 2)。
確立した活性化血小板・単球複合体検出のフローサイトメトリー解析法を示す。サイドスキャッター(SSC)と単球マーカーであるCD14にて単球分画を確定し,P-セレクチンが接着した単球の割合をCD62Pの発現にて定量した。
今回,活性化血小板のマーカーとしてCD62P(P-セレクチン)を用いた。P-セレクチンとは,血小板や血管内皮細胞に誘導される140 kDaの細胞接着分子で,アゴニストによる刺激を受けると活性化血小板の表面に発現し,血小板-単球および血小板-顆粒球の接着を媒介する。このP-セレクチンと単球の相互作用は血管内皮細胞上への炎症細胞集積に関与するとされている。
4. 活性化血小板・単球複合体定量法の安定性・再現性確立したフローサイトメトリー法が活性化血小板・単球複合体を再現性よく定量出来るか検討するために,代表的な血小板活性化惹起物質であるコラーゲンを健常人から採取した全血に添加して,活性化血小板・単球複合体形成割合を測定した。健常人10名を対象にCPDAにて抗凝固した全血に,MCMコラーゲンH(LMS社)1 mg/mLを終濃度が0,1,3,5,10 μg/mLになるように調整した。採血した全血114 μLに対し調整したコラーゲンを各6 μL添加し,37℃で60分間振盪反応した。反応後,速やかにホルムアルデヒドが含まれている血小板用固定液:ThromoFixにて90分間固定し,Figure 1に示したプロトコルにて活性化血小板・単球複合体の割合を測定した。
5. 各種膠原病患者を対象にした活性化血小板・単球複合体形成割合の定量各種膠原病患者:SLE 36症例,PN 5症例,MCTD 7症例,RA 6症例を対象にFigure 1に示したプロトコルにて活性化血小板・単球複合体の割合を比較検討した。
健常人10名の全血に代表的な血小板活性化惹起物質であるコラーゲンを終濃度で0,1,3,5,10 μg/mLと添加した結果,対象とした血液により反応に差が認められたものの,前例で添加したコラーゲンの濃度に依存して活性化血小板・単球複合体複合体の形成が促進された(Figure 3)。
代表的な血小板惹起物質であるコラーゲンで健常人10名(A〜J)の全血を刺激した際の本法における再現性・安定性の検証を行った結果を示す。いずれも濃度依存的に活性化血小板・単球複合体を捉えることができた。
各種膠原病患者の活性化血小板・単球複合体形成割合は,SLE(n = 36):14.08 ± 14.38%,PN(n = 5)7.62 ± 3.33%,MCTD(n = 7)4.38 ± 2.39%,RA(n = 6)1.47 ± 0.73%と,SLE症例で他の膠原病に比較して単球・活性化血小板複合体比率は有意に高かった(Mann-Whitney U検定,p < 0.001,Figure 4)。しかし,SLE症例でも活性化血小板・単球複合体の割合が高い症例と低い症例が存在していた。そこで,SLE患者の約40%に合併し,血栓形成の原因となる抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome; APS)の有無をAPS診断(分類)基準案(“Sapporo Criteria” Sydney改訂版)11)に従って診断した。その結果,SLE症例36例のうち,APS合併20例と非合併16例に分類した。
各種膠原病患者:SLE(n = 36),PN(n = 5),MCTD(n = 7),RA(n = 6)を対象に活性化血小板・単球複合体の形成の割合を測定した結果,SLE症例の複合体の形成割合は他の膠原病よりも有意に高かった。(Mann-Whitney U検定,p < 0.001)
そして,APS合併例と非合併例で活性化血小板・単球複合体の割合を比較した結果,APS合併群では非合併群に比較して,明らかに活性化血小板・単球複合体の割合が高かった(Mann-Whitney U検定,p < 0.0001,Figure 5)。さらに,SLE症例を脳梗塞(n = 10),肺塞栓症(n = 3),心筋梗塞(n = 3),深部静脈血栓症(n = 4),無血栓症(n = 16)に分類した結果,無血栓症群に比較して特に脳梗塞および心筋梗塞など動脈血栓塞栓症群で活性化血小板・単球複合体形成割合が有意に高かった。活性化血小板・単球複合体の形成が脳梗塞を中心とする動脈血栓症の発症に強く関連している可能性が示唆された(Mann-Whitney U検定,p < 0.01,Figure 6)。
SLE症例を診断基準に基づきAPS合併症(n = 20)と非合併症(n = 16)に分類して活性化血小板・単球複合体の形成割合を比較した結果,APS合併症では非合併症よりも有意に高かった。(Mann-Whitney U検定,p < 0.0001)
SLE症例をそれぞれの臨床症状:脳梗塞(n = 10),肺塞栓症(n = 3),心筋梗塞(n = 3),深部静脈血栓症(n = 4),無血栓症(n = 16)に分類した結果,無血栓症群に比較して特に脳梗塞および心筋梗塞など動脈血栓塞栓症群で活性化血小板・単球複合体形成割合が有意に高かった。(Mann-Whitney U検定:p < 0.01)
SLEをはじめとする膠原病では,動脈硬化症の危険因子の有無に関わらず脳血管障害など動脈血栓塞栓症が好発している。そのため,血栓形成の初期段階に生じる活性化血小板および動脈硬化病巣の形成に関与する,活性化血小板・単球複合体の定量は臨床上重要であると思われるが,その臨床的有用性は検討されていない。本研究により,SLE患者では他の膠原病患者に比較して,活性化血小板および単球/活性化血小板複合体の割合が有意に高く,特に抗リン脂質抗体が陽性で脳梗塞や心筋梗塞を発症した症例で明らかな増加が認められることを明らかにした。そして,今回確立した「全血フローサイトメトリーによる活性化血小板・単球複合体検出法」が脳梗塞や心筋梗塞を中心とする動脈血栓塞栓症の発症を予測できる鑑別検査法として有用であることが示唆された。
SLEは,若い女性に多く,多彩な自己抗体の出現と,皮膚症状・ループス腎炎・胸膜炎・心膜炎・中枢神経症状・血管病変などの多臓器病変を特徴とする全身性自己免疫疾患の代表である。近年,SLE患者における脳血管障害や虚血性心疾患などの動脈血栓塞栓症の発症に抗リン脂質抗体が密接に関連していることが明らかとなっているが,その発症機序は未だ解明されていない。SLE患者では,慢性の炎症反応により血管内皮細胞が傷害され,血管内で血小板の活性化が誘発されやすい状態が形成されていると推測される。さらに我々は以前の研究で,抗リン脂質抗体が低濃度のアデノシン二リン酸(ADP)により惹起された可逆的な血小板の活性化を不可逆的な血小板凝集に増幅させることを報告した12)。このように抗リン脂質抗体には,他の要因で誘発された血小板の活性化を促進させ血小板凝集塊を形成させる作用があると考えられる。つまり,APS合併SLE患者に高率に発症する脳梗塞の病態形成には,抗リン脂質抗体による血小板活性化の増幅作用と,それに伴うP-セレクチンを介した活性化血小板・単球複合体形成が強く関連していると推測される。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。