2019 年 68 巻 3 号 p. 540-544
間接蛍光抗体法は,抗核抗体(antinuclear antibody; ANA)の標準的判定方法である。しかし,従来の抗核抗体/間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescence assay for antinuclear antibody; FANA)の複雑な工程と目視判断には,熟練した臨床検査技師あるいは検査担当者の技能が必要である。そこで,我々はコンピューター支援型顕微鏡システムEUROPattern FANA分析装置(以下,EPA)と全自動前処理装置を使ったANA測定の基礎的検討を行った。EPAの画像の目視判定による同時再現性と日差再現性は±1管差であった。EPAシステムと全て用手で行う現行法による健常者の結果に著しい差は認めなかった。EPAと現行法の抗体価一致率は97%であった。ANAの染色型(ホモジニアス型,スペックルド型,ヌクレオラ型,セントロメア型)の陽性一致率はそれぞれ,79%,84%,88%,88%であった。EPAは完全なシステムではないものの,ANAを判定するルーチン検査上で有益なシステムである。
The indirect immunofluorescence assay is the gold standard for the screening of antinuclear antibodies (ANAs). However, the procedure of the conventional indirect immunofluorescence assay of ANAs (FANA) is complicated, and the visual interpretation of results requires a highly skilled clinical technologist or laboratory staff. Thus, we performed a basic evaluation of ANA detection using a system for computer-aided immunofluorescence microscopy (EUROPattern Cosmic FANA System, EPA) and an automatic preprocessing device. The antibody titers of within-run and between-day precisions determined by the visual microscopic evaluation of the EPA images were within the range of +/−1 titer step. The ANA titers of healthy individuals obtained using the EPA system and the conventional method by manual operation showed no large differences. The EPA system and the conventional method showed a concordance rate of the antibody titer (within +/−1 titer step) of as high as 97.0%. The positive concordance rates of the ANA patterns, namely, homogeneous, speckled, nucleolar, and centromeric, between the EPA system and the conventional method were 79%, 84%, 88% and 88%, respectively. The EPA system should not be considered as a fully automated system for ANA evaluation. However, it is useful for routine ANA analysis.
HEp-2細胞を用いた抗核抗体/間接蛍光抗体法(indirect immunofluorescence assay for antinuclear antibody; FANA)は,ほぼ全ての核成分に対する抗体を同時に測定でき,その染色像によって対応抗原が推定できるという利点から,SLEなどの自己免疫疾患のスクリーニング検査として有用である1)。2013年にFANAを含めた自己抗体検査の国際ガイドラインが提示され,FANAは抗核抗体(antinuclear antibody; ANA)のスクリーニングの標準法として位置づけられた2)。しかし,前処理工程が煩雑で自動化が難しく,目視判定があるため熟練を要する3)。また,蛍光顕微鏡の性能や減光フィルターの使用の有無に起因する施設間差があると言われている4)。
これらの課題を解決するために,コンピューター支援型顕微鏡システムEUROPattern Cosmic 間接蛍光抗体法分析装置(以下,EPA)が開発された5),6)。EPAはデジタル画像による染色型と抗体価を予測判定し,鏡検者の目視判定を支援するシステムである。そこで我々は,FANAの前処理工程の自動機とEPAを組み合わせた全自動システムの基本的性能評価と従来法との比較検討を行った。
材料は当社が受託したFANA検体をプールし作成した連結不可能なパネル血清145検体(陽性92検体,陰性53検体)と社内健常者ボランティア血清97検体を用いた。
FANA前処理工程自動機(以下,FANA自動機)はEDR-384UX(バイオテック社)を使用した。EPA用体外診断用医薬品はPremmune HEp20-10FANA「コスミック」(コスミックコーポレーション社製)を用いた。FANA自動機で染色を行い,EPAで画像を取り込み,コンピューターによる自動予測判定と判定者によるデジタル画像の目視判定(以下,新法(目視判定))を行った(Figure 1, 2)。従来法は,FANA前処理試薬としてフルオロHEPANAテスト(MBL社製)を用い,用手で染色を行い,蛍光顕微鏡で目視判定した。
EPA システムとEDR-384UXを用いたFANA検出
EPA システムとEDR-384UXを用いたFANA検出
ANA染色型(略号)は,均質型(homogeneous; Ho),斑紋型(speckled; Sp),核小体型(nucleolar; Nu),散在斑紋型(centromere; Ce),グラニュラ型(granular; Gra)および核膜型(nuclear envelope; NE)に分類した。
自社管理血清(試料1(陰性),試料2(Ho型),試料3(Sp型))を新法(目視判定)でそれぞれ10回測定した。
2. 日差再現性自社管理血清(試料1(陰性),試料2(Ho型),試料3(Sp型)を新法(目視判定)でそれぞれ5日間測定した。
3. 健常者における従来法と新法(目視判定)の比較社内健常者ボランティア97名の血清を用いて,従来法と新法(目視判定)の抗体価の一致率をみた。
4. パネル血清における従来法と新法(目視判定)の比較パネル血清145検体を用いて,従来法と新法(目視判定)の抗体価の一致率を検討し,さらに,パネル血清の陽性92検体について従来法と新法(目視判定)における染色型の一致率を検討した。なお,陰性カットオフ値は40倍以下とし,抗体価は±1管差以内を一致とした。
試料1,2,3を各10回連続測定した結果,いずれも抗体価は1管差以内であった(Table 1)。
No. | 試料1(倍) | 試料2(倍) | 試料3(倍) |
---|---|---|---|
1 | 40未満 | 80 | 1,280 |
2 | 40未満 | 80 | 1,280 |
3 | 40未満 | 160 | 1,280 |
4 | 40未満 | 160 | 1,280 |
5 | 40未満 | 80 | 1,280 |
6 | 40未満 | 80 | 1,280 |
7 | 40未満 | 80 | 2,560 |
8 | 40未満 | 80 | 2,560 |
9 | 40未満 | 80 | 1,280 |
10 | 40未満 | 80 | 1,280 |
試料1,2,3を各5日間測定した結果,いずれも抗体価は1管差以内であった(Table 2)。
日数 | 試料1(倍) | 試料2(倍) | 試料3(倍) |
---|---|---|---|
1 | 40未満 | 80 | 1,280 |
2 | 40未満 | 80 | 1,280 |
3 | 40未満 | 80 | 1,280 |
4 | 40未満 | 80 | 1,280 |
5 | 40未満 | 80 | 1,280 |
健常者97検体の判定において40倍以下と80倍以上の割合は,従来法で87.6%(85/97)と12.4%(12/97),新法(目視判定)で86.6%(84/97)と13.4%(13/97)となり概ね一致していた(Table 3)。
希釈倍率 | 従来法 | 新法(目視判定) | ||
---|---|---|---|---|
頻度 | 割合 | 頻度 | 割合 | |
40未満 | 79 | 81.4% | 75 | 77.3% |
40 | 6 | 6.2% | 9 | 9.3% |
80 | 5 | 5.2% | 5 | 5.2% |
160 | 4 | 4.1% | 5 | 5.2% |
320 | 1 | 1.0% | 2 | 2.1% |
640 | 2 | 2.1% | 1 | 1.0% |
従来法と新法(目視判定)の抗体価の一致率(1管差内)は97.0%であった(Figure 3)。
新法(目視判定)と従来法の相関図
陽性92検体の染色型の判定一致率は,Ho型で79%(73/92),Sp型で84%(77/92),Nu型で88%(81/92),Ce型で88%(81/92)であった(Table 4)。また染色型一致率は81.0%であり,2管差乖離した染色型はNu型であった。
Ho型(n = 92) | 新法(目視判定) | ||
---|---|---|---|
+ | − | ||
従来法 | + | 38 | 9 |
− | 10 | 35 | |
Sp型(n = 92) | 新法(目視判定) | ||
+ | − | ||
従来法 | + | 38 | 9 |
− | 6 | 39 | |
Nu型(n = 92) | 新法(目視判定) | ||
+ | − | ||
従来法 | + | 9 | 3 |
− | 8 | 72 | |
Ce型(n = 92) | 新法(目視判定) | ||
+ | − | ||
従来法 | + | 67 | 5 |
− | 6 | 14 |
新法(目視判定)の同時再現性,日差再現性の基本性能と従来法との一致率は概ね良好であった。現在,EPAの自動予測判定により仕分けられた陽性群,陰性群,1日当たり数件のフォーカス不良群(要再検群)の3群を対象に,各群内で輝度順に並べて目視にて確認している。現時点では,陰性群の画像も含め全て目視判定を行い1日当たり約2,500検体の検査を実施しているため,従来法では検鏡時間が1日あたり4人で約3時間であるのに対し,新法(目視判定)では2人で約3時間に業務改善ができた。
また,自己抗体検査の国際ガイドラインによると,膠原病別のカットオフ値はノンパラメトリック法上,95%タイル値が使われており,多くの医療施設で20~40倍をカットオフ値としている4)。吉田ら7)の報告では,FANAによる抗核抗体陽性カットオフ値の設定において,希釈倍率を20倍以上を陽性としている施設は98施設中68施設(69%),40倍以上を陽性としている施設が21施設(21%)で,その他が9施設(10%)であった。この結果は蛍光染色像を陽性,陰性と判定することが必ずしも容易ではないことを示している7)。また,薬物によってFANAが陽性になることが知られており,健常者の選定も精査が必要である。今回対象とした健常者97名には薬物服用に関して調査していないが,従来法,新法(目視判定)の比較で,40倍未満が81.4%,77.3%となり,約80%が40倍未満であることがわかった。現在のところ,当社ではメーカーが推奨の40倍をカットオフ値としている6)。
今後,臨床検体のデータ解析情報をもとに自動予測判定の性能は向上し,EPAにより陽性,陰性の施設間差がなくなれば,カットオフ値も収束するものと思われる。
EUROPattern Cosmic(EPA)を用いた抗核抗体の検出は,日常の臨床検査に十分適用可能な性能を有している。また,蛍光画像をデジタル化しモニターに出力することで,暗室での作業が不要となり,作業環境の改善につながる。加えて,履歴画像の抽出機能を有することからトレーサビリティを担保する上でも優れた方法である。今後,自動予測判定システムの精度向上により,判定者間のばらつき減少や工数削減が期待できる。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。