2019 年 68 巻 3 号 p. 519-524
血中フィブリノゲンの測定にはトロンビン時間法(Clauss法)が広く使用されている。しかし,Clauss法ではフィブリノゲンからフィブリンへと転化する活性をもって定量を行うため,機能異常を有する先天性異常フィブリノゲン血症などの評価においては抗原量の評価が必須となる。今回我々は,フィブリノゲン抗原量測定試薬ファクターオート®フィブリノーゲンを用いて全自動血液凝固測定装置CS-5100向けの測定パラメーターを新たに設計し,その妥当性評価を行った。同時再現性および日差再現性は変動係数で5%未満であった。一方,希釈直線性は720 mg/dLまで良好な直線性を示し,最小検出感度は4.2 mg/dLと非常に良好であった。また,相関性試験においては,Clauss法と検討試薬で回帰式y = 0.9987x + 7.67,相関係数r = 0.9874と良好な相関を示した。また,我々が以前に確立した対照試薬(N-アッセイTIA Fib)との相関性は,回帰式y = 1.078x − 4.4,相関係数r = 0.988であった。本研究により,全自動血液凝固測定装置CS-5100においてファクターオート®フィブリノーゲンを用いたフィブリノゲン抗原量測定が可能となった。今後,フィブリノゲン抗原量の評価が日常検査としてより身近なものとなり,フィブリノゲン異常症の診断に寄与できることが期待される。
The Clauss fibrinogen assay (CFA) has been widely used and determine functional fibrinogen levels. Although fibrinogen antigen (Ag) level determination is necessary for the diagnosis of fibrinogen abnormalities, few reagents and coagulation analyzers had been optimized for measuring fibrinogen Ag. In this study, we newly established an assay parameter to determine fibrinogen Ag level using the FactorAuto® Fibrinogen reagent, which is based on the latex immuno-agglutination assay for the CS-5100 analyzer. We assessed within-run and between-day imprecisions using two levels of control plasma. Dilution linearity and limit of detection of the fibrinogen antigen were also investigated. The correlation between functional fibrinogen and antigenic fibrinogen was analyzed using citrated plasma from patients without dysfibrinogenemia. This study was approved by the Nagoya University Hospital Ethics Committee. Within-run imprecision and between-day imprecision were <5%, and dilution linearity was up to 720 mg/dL. The limit of detection was 4.2 mg/dL when the sample volume was increased two-fold. The correlation between fibrinogen activity (CFA) and Ag (FactorAuto® Fibrinogen) was excellent and Spearman’s r was 0.9874. The excellent correlation between FactorAuto® Fibrinogen and N-assay TIA Fib for the antigen was observed and Spearman’s r was 0.988. Fibrinogen Ag levels determined by FactorAuto® Fibrinogen showed a significant difference (p < 0.005) compared with N-assay TIA Fib. These results suggest that the FactorAuto® Fibrinogen reagent is useful for routine laboratory tests. We observed a significant difference between the FactorAuto® Fibrinogen and the N-assay TIA Fib, and both reagents are available in CS-5100 analyzer. Taken together, automated fibrinogen antigen determination using the CS-5100 analyzer is available in clinical settings and could contribute to the diagnosis of fibrinogen abnormalities.
血中フィブリノゲンの測定は凝固能の評価ならびにフィブリノゲン異常症のスクリーニングに必要不可欠である。このうち,フィブリノゲン異常症は大きくI型とII型に分類され,I型には量的異常を呈する無フィブリノゲン血症と低フィブリノゲン血症が,II型には質的異常を呈する異常フィブリノゲン血症と異常低フィブリノゲン血症が含まれる。このうちII型では活性と抗原量に乖離が生じ,抗原量に比して活性が低値を示す1)。さらに,II型の異常フィブリノゲン血症は後天的要因にも発症することが報告されており,肝硬変などの肝障害のほか2),多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症でも異常フィブリノゲン血症に似た病態が生じることが報告されている3),4)。
血中フィブリノゲンの測定法には様々な方法があるが,利便性や迅速性・精度・自動分析装置への適用性などの観点から,トロンビン時間法(Clauss法)が汎用されている5),6)。しかし,Clauss法はフィブリノゲンがトロンビンの作用によりフィブリンへと転化し析出する時間に依存しているため,量的異常のみならず質的異常においても低値を示す。一方で,PT同時測定法はPTの光学的測定時における吸光度変化量がフィブリノゲン量に相関することを利用しているが7),その測定原理ゆえにフィブリノゲン量を正常と誤って評価してしまうリスクがある8)。すなわち,フィブリノゲン異常症の鑑別には,Clauss法による活性濃度の評価に加え,フィブリノゲン抗原量の測定が必要である。
フィブリノゲン抗原量測定にはいくつかの方法があるが,自動分析装置への適応から免疫比濁法が広く使用されている。その測定試薬は汎用の自動分析装置向けに至適化されており,これまで活性濃度と抗原量がそれぞれ異なる機器で測定されてきた。しかし,本来であれば同一機器で両者が測定され,速やかに比活性が求められることが理想と考えられる。
我々は,これまでにフィブリノゲン抗原量測定試薬の凝固自動分析装置への搭載を可能にするべく検討を行ってきた9)。今回新たに,ファクターオート®フィブリノーゲン(キューメイ研究所)について,全自動血液凝固測定装置CS-5100用新規アプリケーションの設定を行った。
測定機器には全自動血液凝固測定装置CS-5100(シスメックス)を用いた。検討試薬としてフィブリノゲン抗原量測定試薬であるファクターオート®フィブリノーゲン(ラテックス免疫比濁法Latex immune-agglutination assay; LIA)を使用した。フィブリノゲン活性測定(Clauss法)には,トロンボチェックFib(L)(シスメックス)を用い,フィブリノゲン抗原量測定試薬の対象試薬としてN-アッセイTIA Fib(免疫比濁法Turbidimetric immunoassay; TIA)(日東紡メディカル)を使用した。
2. 検量線作成新たに設定したアッセイパラメータ(Figure 1)を用いて,ファクターオート®フィブリノーゲン標準(720 mg/dL,キューメイ研究所)にて検量線を作成した。希釈は5ポイント行い,各ポイント2回測定を行って平均値をプロットした。
同時再現性の検証には,ファクターオート®フィブリノーゲンコントロール(LおよびN)を用いて20回連続測定を行い,標準偏差(standard deviation; SD)および変動係数(coefficient of variation; CV)を求めた。また,ファクターオート®フィブリノーゲンコントロール(LおよびN)を用いて8ヶ月間のうち独立した5日について測定を行い,日差再現性を検証した。
4. 希釈直線性ファクターオート®フィブリノーゲン標準(720 mg/dL)を専用希釈液にて段階希釈し,希釈直線性を検証した。
5. 最小検出感度ファクターオート®フィブリノーゲン標準(720 mg/dL)を専用希釈液にて段階希釈し,各希釈液を5回連続測定した。20 mg/dL未満の濃度域においてはサンプルを増量(2倍量)して測定を行い,3SD法にて最小検出感度を求めた。具体的には,ブランクの測定平均値+3SDの値が,希釈液の測定平均値−3SDと重複しない点を最小検出感度とした。
6. 相関性試験相関性試験には患者の検査後残検体(3.2%クエン酸ナトリウム加血漿)100例を,名古屋大学医学部生命倫理審査委員会の承認(承認番号2010-1038-2)を得て使用した。Clauss法による活性ならびに抗原量(LIAおよびTIA)を測定し,Prism7(GraphPad® Software)を使用してSpearmanの順位相関係数を算出した。また,両群間における各サンプルの比較はWilcoxonの符号順位検定にて行い,さらに差分分析としてBland-Altman plotを作成した。本研究における有意水準は0.5%とした。
CS-5100にて作成した検量線を示す(Figure 2)。どのポイントにおいても反応は問題なく,最高濃度である720 mg/dLにおいてもプロゾーンエラーは検出されなかった。以下の検証実験は本検量線を用いて行った。
コントロールN(正常域)ならびにL(低濃度域)を用いた同時再現性は,それぞれCVが1.94%および2.17%であった(Table 1)。また,5日間の日差再現性はそれぞれCVが4.31%および4.69%であった(Table 2)。
Control N | Control L | |
---|---|---|
Mean (mg/dL) | 243.6 | 123.2 |
SD | 4.74 | 2.68 |
CV (%) | 1.94 | 2.17 |
Control N | Control L | |
---|---|---|
Mean (mg/dL) | 258.1 | 131.1 |
SD | 11.13 | 6.15 |
CV (%) | 4.31 | 4.69 |
ファクターオート®フィブリノーゲンのCS-5100における希釈直線性は良好で,720 mg/dLまで確認できた。決定係数(r2)は0.999であった(Figure 3)。
一方,最小検出感度は通常の希釈倍率で測定を行った場合,26.1 mg/dLであったが(Figure 4A),20 mg/dL未満の測定において検体量を増量(2倍量)したところ,最小検出感度は4.2 mg/dLと非常に良好な結果となった(Figure 4B)。
A, default dilution rate; B, lower dilution rate (two-fold).
まず,Clauss法と検討試薬(LIA)について相関性を検証したところ,回帰式はy = 0.9987x + 7.67,相関係数はr = 0.9874と非常に良好な結果を示し(Figure 5A),両者の測定値間に有意な差は認められなかった(p = 0.046)。また,測定値の差の平均は1.1 mg/dLであった(Figure 5B)。一方で,我々が以前に確立した対照試薬(TIA)との相関性は,回帰式がy = 1.078x − 4.4,相関係数はr = 0.988とわずかにLIAで高値となる傾向が見られたものの非常に良好な結果を示した(Figure 5C)。これら両者の測定値の間には有意な差が認められ(p < 0.005),測定値の差の平均は18.1 mg/dLであった(Figure 5D)。
A, Correlation between functional fibrinogen (Clauss fibrinogen assay) and fibrinogen antigen (FactorAuto® Fibrinogen). B, Bland-Altman analysis of functional fibrinogen and antigen. C, Correlation of fibrinogen antigen between FactorAuto® Fibrinogen (latex immuno-agglutination assay) and N-assay TIA Fib (Turbidimetric immunoassay). D, Bland-Altman analysis of fibrinogen antigen determined by FactorAuto® Fibrinogen and N-assay TIA Fib.
フィブリノゲンは消費あるいは産生の亢進によりよく増減のみられるタンパク質であるが,特に臨床血液学的には低値が重要視されることが多い。先天性異常フィブリノゲン血漿に代表されるようなフィブリノゲン異常症は,極めて稀な疾患であるものの,フィブリノゲン低下症は日常,比較的よく遭遇する事例である。このとき,フィブリノゲン低下が実際に量的異常によるものなのか,あるいは質的異常によるものなのかを検証するためには,フィブリノゲン抗原量の測定が必須となる。しかし,すでに外注によるフィブリノゲン抗原量測定はほとんど取り扱われておらず,これを測定するには自施設で実施するか,専門施設に依頼をする必要がある。専門施設に検体を送付することについては,倫理的観点から容易でないことが多い。また,この検証には時間的猶予がないことも多く,すなわち,出来るだけ自施設で,かつ迅速に抗原量の確認を行うことが重要であり,フィブリノゲン抗原量測定の需要は潜在的なものも含め少なくないと推察される。
今回およびこれまでの我々の研究成果により,2018年時点で上市されている自動分析装置向けのフィブリノゲン抗原量測定試薬2試薬が,全自動血液凝固測定装置CS-5100で使用可能となった。今回検討を行ったファクターオート®フィブリノーゲンは,特に高い試薬安定性をもち,測定件数の少ない施設においても有用であると考えられる。これまでに検証を行ったN-アッセイTIA Fibとの比較では,わずかではあるもののファクターオート®フィブリノーゲンで高値となる傾向が観察された。しかし,正常下限から低値域についてはそのバイアスも認められず,これまでN-アッセイTIA Fibを使用してフィブリノゲン低下症の検証を行ってきた施設においても,大きな影響なく試薬切り替えが可能であると考えられる。また,永田ら10)は,Coapresta2000(積水メディカル)における性能評価を行い,その有用性を報告している。すなわち,ファクターオート®フィブリノーゲンは,2種類の異なる全自動血液凝固測定装置に搭載可能となったと言える。
最近,我々は,フィブリノゲン抗原量測定を必要としない,新たなフィブリノゲン異常症の鑑別法を確立した11)。この新規鑑別法では,Clauss法において凝固波形解析(clot waveform analysis)を行うことで,その算出されたパラメーターからI型およびII型に属するフィブリノゲン異常症を区別する。先天性異常フィブリノゲン血症についても,Clauss法の測定のみで低フィブリノゲン血症との鑑別が可能である。しかし,フィブリノゲン異常症の確定診断には未だ抗原量の測定が必須であり,本研究成果は日常診療に大きく寄与できることが期待される。
全自動血液凝固測定装置CS-5100でファクターオート®フィブリノーゲンを用いたフィブリノゲン抗原量測定が可能となった。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。