2019 年 68 巻 4 号 p. 626-636
神経性やせ症では,摂食障害により全身にさまざまな合併症を引き起こし,重篤化すると死亡に至る場合がある。心血管系の合併症としては,洞徐脈,心嚢液貯留,僧帽弁逸脱症などが見られる。特に心嚢液貯留は22~71%の患者で存在すると報告されており,神経性やせ症患者に対する心エコー図検査では心機能評価と共に心嚢液貯留の程度やその変化を観察する必要がある。また心嚢液貯留は急激な体重減少,低BMI値,低T3値との関連性が指摘されている。今回我々は神経性やせ症患者の心エコー図検査において観察された心嚢液と,各種血液および生理検査データとの関連性,また心嚢液貯留量の変化に伴う各種データの変化を解析し,神経性やせ症患者の心嚢液貯留の原因について検討した。心嚢液貯留量と各種データとの相関では,甲状腺ホルモンであるFT3,FT4で負の相関を認めた。治療前に比し心嚢液貯留量が減少した群と減少がみられなかった群における各種検査データの治療前後の比較でも,心嚢液貯留減少群では治療後に甲状腺ホルモンが改善しており,神経性やせ症の心嚢液貯留は甲状腺ホルモンと関係していることが示唆された。今回の検討より,心エコー図検査での神経性やせ症の心嚢液貯留の観察は,心血管機能への影響を含め,甲状腺ホルモンの低下や全身状態を推測する一助になるのではないかと考えられた。